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鋳鉄剣の製法を教えてください。 中世北欧で一世を風靡したヴァイキング・ソードは中東イスラム商人から仕入れた鋼鉄と鉄からパターン溶接によって鍛造していたようです。 ヴァイキング・ソードが登場する前・・・鋼鉄の製法&加工技術が北欧に入ってくる前は鉄を坩堝に入れて坩堝ごと木炭で熱し、溶けた鉄を型に注いで剣を鋳造。それを研いで刃をつけて焼き入れをしていたようです。 ただ、この坩堝に入れる鉄に疑問があります。 北欧の沼地等で採れていた砂鉄や鉄鉱石そのままで良いのでしょうか? おうる |
- 回答がつかないようですのでコメントしますが、
「木炭を使って砂鉄を溶かし、結果的に鋳鉄ができるか?」の意の質問だとすれば、以下の理由から、できるはずがないと考えます。
まず、「木炭を使って砂鉄を溶かし」の部分ですが、
・砂鉄の融点:1400℃程度
・木炭の燃焼温度:上限1200℃程度
という情報がネット上にありますので、この組み合わせでは溶けた金属は得られないでしょう。
次に「砂鉄を溶かし、結果的に鋳鉄ができるか?」の部分ですが、
木炭→石炭→コークスと燃料を上質にし、空気も予熱を与えたり酸素に変えたり、何とか砂鉄を溶かしたとしても、残念ながら鋳鉄にはならないでしょう。
これも調べて貰えればわかると思いますが、砂鉄の成分は「酸化鉄+不純物」です。鉄を得るためには酸素と不純物を除去するプロセスが必要になります。
以上が砂鉄を例にした理由・理屈の類です。話の肝を誤解を恐れずにいうと「砂鉄は鉄とは違う」ということになりますし、また木炭であぶって溶ける鉄とは「人の手で精錬されたもの」に限定されてしまいます。(地球由来の鉄は酸化鉄のカタチになっているはずですので。)
太助
- >>1 回答ありがとうございます。
>「木炭を使って砂鉄を溶かし、結果的に鋳鉄ができるか?」の意の質問だとすれば、以下の理由から、できるはずがないと考えます。
日本古来の「たたら製鉄」は砂鉄を木炭で溶かして鋼を作りますので、木炭で砂鉄を溶かすことはできないという話はおそらく成立しないと思います。
木炭の年商温度が上限1200度というのは、おそらく鞴等で風を送らない自然換気状態での話であろうと想像します。
おうる
- 炭素が飽和状態に近い鉄(4.25%)、銑鉄の溶融温度は1100度程度です。
木炭で達成できる温度です。
これから炭素を抜いていくと溶融温度が上がるので、鋳造の難易度は上がります。
鋼は炭素濃度0.3%-2%です。
たたら製鉄は鉄を溶解状態にしない、半溶状態での製鉄法です。
当然より低温での操業が可能です。
製鉄の新書一冊買ったほうが早いです。
通りすがり
- >>3 回答ありがとうございます。
>製鉄の新書一冊買ったほうが早いです。
お勧めに従い、何か本を探しては見ます。ただ、大部分の製鉄に関する書籍で説明されているのはコークスを使ったもので、産業革命以前の欧州で主流だった木炭高炉や古代〜中世の製鉄技術に関する製鉄技術を扱ったものは少ないので・・・
おうる
- http://www.hurstwic.org/history/articles/manufacturing/text/bog_iron.htm
http://www.hurstwic.org/history/articles/manufacturing/text/viking_sword.htm
http://www.tf.uni-kiel.de/matwis/amat/iss/kap_a/backbone/ra_4_1.html
新書1冊も読まずにこれらのページを心の目で流し読みますと、
・砂鉄をヴァイキング時代の精錬法で加熱すると1300度まで出る。
・しかし1500度ないと鉄は溶融しない。うまく炭素を混ぜて融点を低くすると、熱せられた表面だけ溶融して、少し温度が足りなくても鋼ができる。でも難しいし効率も悪い。
・だから一般戦士は斧を使う。剣は高価で、貴重な地位の象徴で、でも折れるときは折れる。
ということのようです。子供のころにやったオオバコ相撲で、太くて強いオオバコが連戦の結果ぶちっと敗けたのを思い出しますね。
スカンジナビアで作られた、ウルフバート(Ulfberht)という文字を刻まれた一連の名刀は、どうやら中央アジアないしインドのどこかで作られたウーツ鋼を使っており、つまり砂鉄製ではありませんでした。これはググると日本語でヒットするので略します。
マイソフ
- >>5 回答ありがとうございます。
参考にさせていただきます。
おうる
- ちょっと追記しますが、その前に一冊紹介。
鋼の時代
https://www.amazon.co.jp/dp/4004160618
古い本ですが、よい本ですよ。図書館にもあるでしょう。
さて砂鉄にせよ鉄鉱石にせよ、地表に存在する鉄原料は酸化鉄です。それをそのまま高温に曝せば溶けますが、鉄の溶存酸素は鉄の性能を損ないます(人間の使用する範囲において、ですが)。
であればこそ、酸化鉄を還元(脱酸)するところから全ての製鉄は始まるのであり、その還元剤に炭化物を用いるわけです、木炭もコークスもその点では一緒。
そして還元(脱酸)プロセスが終わった銑鉄は還元剤である炭化物のため必然的に高炭素濃度であり、融点が低く溶銑にしやすいので扱いが楽、高炉とはここまでのプロセスを担当する設備です。
高炭素濃度の鉄すなわち銑鉄は特有の性質があり、通常は脱炭し炭素濃度を下げたいとの欲求を生じます。しかし鉄中の炭素濃度を下げると融点が最大1400度まで上がり温度を上げないと粘り始め、しまいには溶融状態の維持が難しくなるので、その高温状態をどう作り出しどう維持するかが製鋼のネックであり、近代製鉄の長い苦悶の歴史なわけです。
それを何らかの事情で技術的に達成できない場合、または銑鉄のままで利用してもかまわない場合は、還元プロセスが終わったままの状態の、融点の低い高炭素濃度の鉄がそのまま利用されるでしょう。
その上で炭素濃度が鉄の性能に与える影響を定性的にでも理解していれば、最大1200度以下で鋳造できる剣の性能も見当がつくのでは?
なお銑鉄を溶融状態とする1100度の温度が達成できなくても製鉄はできます。
より低温であろうと還元反応は進行するので、半溶状態で操業する製鉄法は世界中にありますし、たたらもこの系統です。
しかし鉄に溶け込まない不純物の除去という点において不利で、また品質が一定しないという欠点があり、利用にあたり精錬以前に製錬の段階で工数がかかります。
むしろ溶けた鉄、溶銑を人間が利用できるようになったのは比較定期最近の話であり、歴史的には半溶状態での製鉄を行っていた地域と時代のほうが多いです。
例外は中国地域で、紀元前後には溶銑を利用できる技術が確立されていたことがわかっており、それは中国の他の地域への大きなアドバンテージだったはずです。ヨーロッパはこの水準に追いつくまで1800年ほどかかっています。もっとも途中にローマの崩壊が挟まった点が、発展と停滞のどちらに影響したか微妙なところです。
余談ですが、製鉄の燃料という点においてコークスは木炭に比べて高品質な燃料というわけでは必ずしもありません。でなければ、石炭/コークス高炉が18世紀からあるにも関わらず、木炭高炉で操業を続けたスウェーデンの鉄が19世紀を通じて(そしてもっと以前から)高品質であり続けた理由がわかりません。
むしろ、製鉄に使用する限り石炭/コークスには木炭にはない欠点があり、これを克服することが近代製鉄の課題の一つでもありました。
にもかかわらず石炭/コークス製鉄が広く普及したのは、単に製鉄に使用し得る木材資源が枯渇したのが大きな理由です。スウェーデンは木が豊富ということですね。
上で書いたことはもちろん、省いた点も最初に紹介した本には全て書いてあります。
当方は本職ではないので別に詳しいわけではありませんが、簡単なパズルなら基本ができていれば断片的なファクトに振り回されることなく自分でピースを並べることができます。
その基本が一冊読めば構築できるならお得じゃないかと私などは思うわけですが、まあ他人に強要できる話じゃありませんでしたね。
通りすがり
- いやぁ、質問者は砂鉄を鉄だと思い込んでいるものだと、精錬の話は頭にないのだろうという予想の元、>>1を書いてしまいました。違っていたら失礼しました。
>>7
>余談ですが、製鉄の燃料という点においてコークスは木炭に比べて高品質な燃料というわけでは必ずしもありません。でなければ、石炭/コークス高炉が18世紀からあるにも関わらず、木炭高炉で操業を続けたスウェーデンの鉄が19世紀を通じて(そしてもっと以前から)高品質であり続けた理由がわかりません。
おそらくコークスは木炭に比べて高品位だと思いますよ。加工費も高いでしょうが…。ただし石炭は別です。これは加工品ではありませんが、硫黄(S)分を含みます。このあたりが以下の特徴になり、住み分けにつながったのでしょう。
・コークス:最高火力だが加工費高い。S分なし。
・石炭:高火力だが、S分除去のプロセスが必要。
・木炭:低火力だが加工費安い。S分ほぼなし。
ちなみに小生は質問文を以下のように解釈しています。これでは精錬はできないと思います。
■ ■
■「砂鉄」「砂鉄」■
■「砂鉄」「砂鉄」■
■「砂鉄」「砂鉄」■
■■■■■■■■■■
炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎
「木炭」「木炭」「木炭」
「木炭」「木炭」「木炭」
製鉄の話がでてきたので、当たり前のコメントすると、
以下のように「砂鉄」と「木炭」を一緒にしないと効果的な精錬はできませんね。
■ ■
■「砂鉄」「砂鉄」■
■炎炎炎炎炎炎炎炎■
■「木炭」「木炭」■
■■■■■■■■■■
太助
- >>8
現代のコークスならたぶんそうでしょうね。
19世紀のコークスは恐らく当時の乾留技術の限界だと思うのですが、S分の残留が多かったはずです。
これは転炉の開発段階で、木炭高炉製銑鉄では問題が起きないのにコークス高炉製銑鉄では残留硫黄が問題になり、脱硫が転炉の大きなネックの一つになったことはよく知られています。
燃焼温度、強度等の関係で現在の高炉で石炭コークス以外が使われることはまずないと思いますが、過去にこんな事例があったことは押さえておきたいところです。
・・・と書こうと思ってたんですが、ふと見つけたのが以下のPDFです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfes/82/8/82_491/_pdf
こちらのTable1を見ますと、コークスのS分0.12%に対し、木炭0.04%は驚きの数字でした。
こういう数字もありますし
http://ntek-1945.com/koks.pdf
木炭はS分に関しては本当に優等生なのかもしれませんね。
あと、愛のないツッコミで申し訳ないのですが、その図でできるのは製錬ですね。
通りすがり
- >>7-9 回答ありがとうございます。
>いやぁ、質問者は砂鉄を鉄だと思い込んでいるものだと、精錬の話は頭にないのだろうという予想の元、>>1を書いてしまいました。
さすがにそれは無いです。
イスラム商人から鋼&鉄&パターン溶接技術を入手する以前は北欧で鋼の武器は作られておらず、それ以前の刀剣は鋳鉄製で、強度を保つために刃の肉厚を高め、刃は焼き入れで切れ味を確保(1〜2回の使用で焼き入れした表層が剥離するので、使うたびに焼き入れし直し)という代物と言われています。(確かに裕福な貴族・豪族でなければ所持できないものだったでしょう。)
奈良時代の日本の刀剣の調査結果によると、刀を鍛造する際に砂鉄をまぶして脱炭を促進させていたようだ・・・というような内容の記述を見たことがあります。
イスラム商人との接触以前の時代における北欧での鉄の入手は隕石などの例外を除けば沼地で拾える鉄鉱石か砂鉄に限られます(「鉄鉱石拾い」という、寒さに震えながら沼地を裸足で歩きまわる過酷な仕事をする専門職がいた)。そこで砂鉄や鉄鉱石をそのまま使ったのか?と疑問に思いました。
>・コークス:最高火力だが加工費高い。S分なし。
>19世紀のコークスは恐らく当時の乾留技術の限界だと思うのですが、S分の残留が多かったはずです。
まず、19世紀以前のコークスは硫黄分を含んでいます。コークスを還流するためには1300度以上の温度が必要で、コークスの脱硫ができるようになるのは20世紀になってからのはずです。
また、18世紀ごろの製鉄所では鉄の溶融温度を下げるために、あえて硫黄を加えていたという話もあります。巣の原因になりやすいはずですが、その対処をどうやっていたのかまでは知りません。
>ちなみに小生は質問文を以下のように解釈しています。これでは精錬はできないと思います。
その通りです。
YOUTUBEで初期のヴァイキングソード(イスラム圏との接触以前の鋳鉄剣)の鋳造の再現を試みている動画を見つけたのですが、坩堝に鉄板(だけ)を入れて炉で溶かしていました。しかし、動画で使われている鉄板はどう見ても現代の技術で作られたもので、「そんなんじゃ当時を再現することにはならないだろう」と心の中でツッコミを入れたんですが・・・同時に「じゃあ、イスラム圏から鉄を入手する以前は坩堝に何をいれてたんだ?」と疑問に思ったのがこの質問を投稿するきっかけとなっています。
おうる
- 自己レス
>そこで砂鉄や鉄鉱石をそのまま使ったのか?と疑問に思いました。
ちょっと、この「そのまま」は誤解を招く記述でした。
何かを一緒に坩堝に入れて熱することで酸素を抜くような私の知らない方法が当時あったのか?と疑問に思いました。
おうる