346  日本海軍を含め、近代の各国海軍の軍服は、おおもとを辿るとどこも英国のヴィクトリア朝の頃の英国海軍を模範としたみたいですが、英国海軍の士官は長剣(サーベル?)を吊った図は見かけますが、日本海軍の士官のように短剣は吊らなかったのでしょうか。
 それと、日本海軍の士官がなぜ短剣を吊るようになったのか、その理由も教えてください。

 軍服も装備のうちかと思い、ここで記入しました。間違っていたらすいません。
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  1.  イギリスはスコットランドにダーク(Dirk)という短剣がありました。全長15〜25cm位の短剣です。
    スコットランド土着の武器でしたがスコットランドの大英帝国への編入に伴い、英国正規軍の武器として利用される様になります。
    此れが18世紀には英海軍の正式短剣として用いられる様になりました。
    その結果、世界の海軍で海軍用短剣として普及していく事になります。
     日本海軍の場合は、英海軍の指導を受けた事もあり、明治6年(1873)12月15日にダークを模した二種類少尉試補・士官候補生徒・曹長用、下級下士官用)の海軍短剣を採用します。
    更に明治16年(1883)10月20日に士官用短剣を制定します。
     質問の回答としては、ダークは英海軍の正式短剣なので、士官も吊っていたと言って良いでしょう。海外の帆船海洋小説を読んでいるダークを使う士官とかが描かれていますし。
    何故に日本海軍で短剣を吊る様になったかですが、多くのダークに類似した短剣を海軍に配備した国々と同じ理由で、短剣を吊っている個人の社会的地位・権威・男らしさの象徴として兵と分ける為に吊っていました。



  2.  制服の正規装着品としての刀剣類については各国海軍それぞれの伝統・慣習がありますので全てを一元的に言うことはできないことを最初にお断りした上で。

     「海軍士官」ということでしたら、各国海軍とも正規に吊るのは長剣です。 これは礼装・正装の場合にはほぼ例外はありません。

     通常の服装、いわゆる常装(軍装)では長剣を吊る国と吊らない国があります。 19世紀前半までは基本的に英国海軍でも長剣です。 もちろん長剣を吊ると言っても、場合によっては(規則に従い)省略することもあることは当然です。

     ただし、英国海軍では士官が短剣を正規の制服装着品として採用したことはありません。(帆船時代の格闘戦において長剣の補用として携帯し使用したことはありますが。)

     これは英国を始めとする多くの国の海軍では、短剣は伝統的に士官候補生(Midshipman, Middy)の象徴として取り扱われているからです。 日本海軍でもこれに倣い兵学校等の生徒は短剣とされました。

     日本海軍で士官の常装における装着品として短剣が制定されたのは明治16年の「海軍服制」の改正時からです。 この改正についてはアジ歴に『海軍服制並海軍下士以下被服給与概則改正の件(1)』(レファレンスコード: C11080632100)として公開されています。

     当該文書ではこの士官用の短剣の制定については「便利上より之を設く」としか記されておりませんが、通常勤務、特に艦船上においては長剣が邪魔になることがその大きな理由であることは間違いないでしょう。 ただし短剣が制定されたと言ってもこれを着用するのは軍装及び通常礼装の場合で、礼装・正装の場合には正規の長剣であることには変わりありません。(もっとも、日本海軍ではこの時以降長剣は剣帯に吊らずに左手で保持する方式になりましたが。)

     常装において海軍士官が短剣を吊るのは、日本海軍の他はロシア海軍などがありますが、世界的に見れば例外的な少数派です。

     なお、この明治16年の改正において「英国海軍の服制を取捨折衷し」として、以後英海軍服制の模倣から離れて日本海軍独自の服制へと進む最初の切っ掛けとなりました。

     以上ご参考までに。

    艦船ファン

  3.  伸さん、艦船ファンさん、よくわかる解説ありがとうございました。
     日本海軍の士官で長剣を吊っている姿でよく知っているのが、日本海海戦の
    際の旗艦三笠の艦橋のあの有名な絵画で、東郷元帥が明治天皇から下賜された
    一文字云々という名刀を吊っていた姿以外見たことが無かったので、ずっと不思議でした。
     長年の疑問がとけました。ありがとうございました。
     
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  4.  ボタンを間違えて押してしまったもので。追伸です。
     短剣は短剣で、スコットランドから英国に取り入れられ、日本海軍にこれはこれで伝わっていたことを知り、なるほどと納得した次第です。
     回答ありがとうございました。
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