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日本ではあまり無い「横向き進水」について質問があります。 進水の際には一様にかなり強い揺れ戻しが来る様子が動画サイト で確認できますが、揺れ戻しにより岸壁と船体が衝突する危険性 がかなり高いように思われます。実際にヒットしているのではないか という動画もありますが、横向き進水にの際には、その危険性 は実際に高いのでしょうか?予防する工夫があるのかあるいは 損傷すれば直せばいいと言う感覚なのか、もしご存じの方がいれば 教えて下さい。 金華山 |
- 実際問題として横滑り進水を選択する造船所というのは、川に面しているなどして進水に必要な滑走距離が稼げなかったり、作業区画の無理な拡張やブロック建造等の効率化を優先した結果によるものが多く、技術的な利点を持って横滑り進水を選択する例は少ないと思われます。
また、私の知る限りでは、進水後の横方向の復原に伴う岸壁との接触例はないのですが、これはスロープと岸壁とには距離がある(進水に無理のない勾配を選べば、船幅に比例する振幅以上は稼げる)ためです。
むしろ、横滑り式進水では、
・着水の瞬間の進水方向への横転
→一定のスピードで移動している所で一ヶ所(着水した部分)だけが抵抗を受けるので、そこを起点とした回転運動=横転・転覆に至る
・船首尾方向へ偏針してしまい、予期せぬ方向へ進水し、かつ距離を延ばして対岸と衝突する
→水面に正対する物体の左右バランスの違い(船首尾の形状の違い)から片方向が先に着水し、そのため先に入った方向から滑り出してしまう。
(船体真横よりも、少しでも前後方向に移動するほうが抵抗が少ないため)
などが指摘されてます。
無論、壊れても直せばよいという乱暴な対応を前提とするものではなく、対処法としては、
1)進水のスピード、特に着水時のスピードを抑えるため、船体に錨鎖等を引きずらせる
(これも左右バランス等を計算して設置する)
船首尾の形状が異なり、片方へ切りあがりそうな場合は、錨鎖の長さを変えることで抵抗が均等となるように調整する
2)スロープの勾配を緩やかにして着水時の衝撃を抑えるようにする
1)のスピードを殺すのと同義だが、施設の改修として選択肢に上がる
また、進水台の形状を変更したり、滑走用の潤滑剤を変更するといった方法もこれに類する
などがあるようですが、他にも進水時間を満潮時や大潮の時期に限定するなどがあります
最後に当然の話となるのですが、最も良い対処法は横復原力を適切にコントロールしておくことで、これは船殻の状態を把握することになります。
通常の縦方向の進水も同じなのですが、進水時には着水時の復原値を記録しますので、前船のデータを次の船へフィードバックする事になります。
同型船を連続して建造する場合には、先行艤装を変更したり、カウンターウェイトやバラストを設定するなどして調整を行うようです。
名無しさん
- なるほど、リスクとしてはそれほど高いものでは無いと言うことがわかりました。
私が疑問を持つに至った動画を参考に下記に貼っておきます。
動画でも特に狭い場所での進水では索などによる対策がなされているみたいですが
復元力など設定が適切でないと以下のような接触がおこるのですね。
http://www.youtube.com/watch?v=vjiubv2Hqq0
http://www.youtube.com/watch?v=12DV4YEhOq4&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=glkvRf6MsZ8
(0:58付近)
>・着水の瞬間の進水方向への横転
まさに下の映像がその寸前の危険な状況ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=zi7cjzYIF0U
金華山
- >2.
冒頭3例をみると、おそらくなのですが五大湖や河川用の艀や小型船を造っていたメーカーが目いっぱいの建造サイズの船を進水させている例にみうけられます。
特に上2例の船首側の錨鎖の動きを見ると、陸上側に強力な電動式ウィンチの様な減速機械(有体にいえば、空母の着艦ワイヤーに取り付ける制動機械)を付ける事で進水方向への頭の振れを無理やり抑え込んでいるように見受けられます。>1.で述べた"船体に錨鎖等を引きずらせる"方法を固定設備としたものでしょう。
(私見ですが、直接陸上のシンカーと錨鎖を結ぶと、揚錨機を壊す可能性が高いので、何からのクッション装置を設けていると思います)
3行目の例に関して言えば、船体サイズに比して進水方向の幅が狭いため、着水時の波が対岸とぶつかり、跳ね返ってくる「返し波」の影響で船体が異常に振れていると見た方が適当で、これは船殻固有の復原力よりも、返し波を含めた動復原力を見るべきかと思われます。
こういった場合は、船体重量が小さい場合は、進水側と対岸から上甲板とにクッションロープを設けて物理的に頭の振れを抑える例が無い事も無いのですが、この方法も衝撃でロープが切れたり、ロープによる拘束で船艇部が振れて岸壁と接触するので注意が必要なようです。
最後の例ですが、良く見ると進水台(船体下にある台形の木製の台)が左右方向で二つに割れています。
これは、傾斜が大きなために船体に固着したままだと着水後に大傾斜をおこすため着水の衝撃で分割できるようにしている例ですが、この事例だと割れるタイミングが早すぎて陸側が気中に残り、水面側が勝手に逃げ出すという状態になり、水面側の受け台に逃げられた船体が横転し、舷側ギリギリまで没水した段階でやっと復原出来たヒヤリハットの例ではないかと思います。
こういった事が予想される場合は、仮設のバルジで大傾斜をおこさないようにする例があるのですが、着水の衝撃で破壊されない程度の強度と取付を要するため、進水後に艤装用船渠に入れる必要があるため、小型船やヨットのように出来上がりを重視する場合には採用されにくいようです。
また、この事例のスロープの距離は船台は短い用で、進水台用のレール以外は護岸の用に直立し、レールの水面下部分もあまり無いように見受けられます。
理想を言えば、スロープ全面が水面下にまで伸びているべきなのですが、船体が着水する前の進水台の壊れ方をみると、レールで支えるべき距離=推進に比例する が不足しているために船体に浮力を与える前に進水台が分解し、映像の様な大傾斜を引き起こしているように思います。
名無しさん
- 非常に詳しいご説明ありがとうございました。興味深く拝見いたしました。
日本で横向き進水を行っている場所はありますでしょうか?是非機会があれば見に行きたいと思います。
金華山
- おそらく国内には横滑り進水を前提とする造船所はもうありません。
元々が地形的な制約を解決するための裏ワザ的なものだったのですが、国内造船所で横滑り式進水を採用していた川筋や港湾奥の臨時の造船所などは、工場レイアウトを改正することで通常の縦方向の進水法や、船渠工法に切り替えたり、河川や水路といった進水後の隘路を忌避して移転するなどして、最終的には無くなっているはずです。
また、漁船レベルであっても、補修のための引き上げの難易度を考えると積極的に残している所は無いのではないかと思います。
名無しさん