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どうも雷電のことが気になってしまったので・・・ 雷電で採用された紡錘形理論では、そうでない場合よりどの程度抵抗値を稼げているのでしょう? 素人目には、形状は正面〜エンジンの最大径部分までが重要で、その後ろについては、五式戦までは行かないにしても、二式戦のように普通に胴を絞った場合と大差ないように思えます。胴を絞ることによりわずかでしょうが重量軽減が見込めるやにも思えます。 とおり |
- 実機抵抗係数は堀越奥宮『零戦』に数字が出ています。
決してそんなに小さな値ではありません。
片
- ああ、表がありました。
何を考えていたかというと、普通に絞った胴体にしても速度はあまり変わらなかったのではないか? です。ある程度下方視界が改善されるでしょう。
とおり
- 雷電の胴体形状の設計意図については、
「形の抵抗と摩擦抵抗の総和が最小となる如く」(三菱資料)
「当時恐れられし衝撃波発生を避けんとし」(三菱資料)
「空冷発動機の発動機覆に対する空気の圧縮性の影響が緩和し前面抵抗が減少する手段として空気力学担当者から推奨された」(堀越)
と語られていて、大直径発動機装備でありながら速度の要求に応えようとした結果であることは明らかです。
しかしながら、「このような手を打って造り上げた胴体の形状の実際の効果は当時の理論通りには著しくはなかったようで、六〇〇粁/時附近から空気の圧縮性が効いて来るという説は少し誇張された議論であったと後になって判明した」(堀越)
堀越奥宮『零戦』によれば、関係する機体の実機抵抗係数は、
A6M1 0.0200
A6M3 0.0215
キ46 0.0232
J2M1 0.0249
J2M2−3 0.0265
A7M1 0.0207
A7M2 0.0219
烈風改 0.0262
となっていて、雷電はうまくいっている部類ではありません。
のちに出現した烈風の方が翼面積が相当大なのにも関わらず抵抗係数を小さくまとめあげることが出来ていることを見ると、十四試局戦以降で方針の転換があったと思ってよいようです。
「設計試作共に遅れ、試作完了せざるに既に時代遅れの感あり」(三菱資料)
「設計側としては前々よりJ2の癌たる視界問題を一挙に解決せんと胴体を細くする案を立てたるも」(三菱資料)
ともあります。
十四試局戦で使われた胴体形状は、設計時点での技術的トレンドだったが、当時にあってもすぐに時代遅れになっていた。
同じ設計思想による十五試水戦の胴体は、紫電から紫電改で全面的に改められていますが、雷電ももしも有望と思われていたなら同じ措置が採られていたのかも知れません。
しかし、同じことを設計開始時点でなぜ出来なかったのか、と指摘するのは当時の実情から乖離してしまうだけなのではないかと思います。
片
- まあ、雷電は発動機の直径が大きすぎて不利であり、烈風は誉を得られたので抵抗係数を小さく作れた、というだけなのかもしれませんが。
片
- 補足しますと、飛行機の受ける抗力は、
抗力=動圧かける空気抵抗係数かける前面投影面積
なので、空気抵抗係数だけ小さくても、胴体が太くなって、前面投影面積が大きくなってはあんまりよくない。
空技廠の実験は、面積を揃えていたのでしょうが、実機では合わせようがない。
エンジン直径よりも胴体を太らせたのはまずかった。
じゃま
- > 5
> 空気抵抗係数だけ小さくても、胴体が太くなって、前面投影面積が大きくなってはあんまりよくない。
そもそも抵抗係数は小さくないのです。
もっと別の道筋から当時の人は考えたのじゃないかな?
片
- 平面図だけからですが、大型の双発機は殆ど大なり小なりこの紡錘形理論を踏んでるように見えます。特にそれらしく見えるのがキ67とキ74。意外に主翼との位置関係なんかも関係するのかなあなどと想像します。
それはともかく、性能に影響大なところなので二種類の胴体を小さな風洞で試すぐらいはしても良かったですね。
とおり
- 4>5>
「零戦」記載の抵抗係数は翼面積を基準にしている数値だと思われます。
雷電の場合は、翼面荷重が高いので翼面積基準で比較すると抵抗係数は高目になります。
抵抗の大きさの絶対値は、抵抗係数×基準面積で定義される等価抵抗面積で比較した方がよろしいかと思います。
零戦と雷電を比較すると、後者は前者に対して出力3割、重量2割増で
等価抵抗面積は1割増、従って速度は約1割増ということになります。
抵抗係数翼面積 等価抵抗面積
[m^2] [m^2]
A6M1 0.0200 22.44 0.449
A6M3 0.0215 21.53 0.463
キ46 0.0232 32.00 0.742
J2M1 0.0249 20.05 0.499
J2M2−3 0.0265 20.05 0.531
A7M1 0.0207 30.86 0.639
A7M2 0.0219 30.86 0.676
烈風改 0.0262 31.30 0.820
7>
双発機の場合,胴体の中程を最大直径としてもそこに収容するべきものが
いろいろあるのですが、単発の戦闘機の場合空洞に近い胴体中央をわざわざ
拡げる価値があったのか?
この点が、雷電の太い胴体の是非が追求される理由です。
い
- >>8
航空機を扱う場合は、抗力係数・揚力係数ともに代表面積は翼面積とするのが一般的ですよね。
ところで、
「出力3割、重量2割増で、等価抵抗面積は1割増、従って速度は約1割増」とありますが、これはどのような計算で求まるのでしょうか。
略式計算なら
・出力3割増→1.3
・等価抵抗面積1割増→1.1
から
・速度=sqrt(1.3/1.1)→8.7%増→約1割増
と出るのですが、これでは「重量2割増」が絡んでこない。重量が絡んでくる略式計算があるのかな、ないのかな、というところが気になりまして。
少し本題とはずれますが、よろしくお願いします。
太助
- 同書の表5の脚注かと思いますが、面積Aを翼面積と書いているのは誤記ではないかと思います。
そうでないと、表5のプロペラ効率÷抵抗係数という数値も意味がない。
翼面積が大きければ、抵抗が小さいことになってしまう。
>9.
>航空機を扱う場合は、抗力係数・揚力係数ともに代表面積は翼面積とするのが一般的ですよね。
一般的ではありません。
太助さんのおっしゃる抗力係数、揚力係数は、翼だけについての場合しか、
当てはまらない。
機体トータルの場合についてではない。
じゃま
- >10.
>翼面積が大きければ、抵抗が小さいことになってしまう。
これは間違いですね。すみませんでした。
じゃま
- >>9
こんなのが出てきますが、簡単じゃなさそうです。
airex.tksc.jaxa.jp/dr/prc/japan/contents/IS4415982000/IS4415982.pdf
とおり
- >9
ご指摘のとおり、等価抵抗面積、速度と重量は直接絡みません。
機体の重さと大きさと等価抵抗面積(のうちの面積)部分は幾分関係がありますので、教科書に出てくる定説、公式のようなものではありませんが、機体の規模の割に抵抗が大きい、小さいを比べる指標として、
機体が同一形状のまま、拡大縮小されると仮定すれば、機体の寸法は重量の1/3乗、翼面積は2/3乗に比例して変化するので、大きさの違う機体の抵抗を比較する場合、抵抗面積を重量の2/3乗で割った値で比べて見れば相対的な抵抗の大小を評価する指標にならないかと思います。(そもそも、元の抵抗係数が翼面積基準ですが)
>10
流体力学的には、投影断面積、表面積などいろいろな基準値がありますが、
業界のお約束で、翼面積基準の抵抗、揚力係数ということでよろしいのでは、
い
- それにしても、機体の空気抵抗を翼面積で決めてしまうのは、よくわからないです。
胴体が太くても細くても、空気抵抗と関係ないとは思えないのです。
じゃま
- >13.
いろいろ考えてみたのですが。
機体が相似形なら、まったく い さんのおっしゃる通りだと思います。
しかし、雷電と五式戦とか、違った機体を問題にするなら、やはり抵抗係数の絶対値が問題になる。
代表面積としては、機体の前面投影面積をとるべきだと思います。
だから、表6の脚注にある式は、何かの誤記か、堀越技師が本当にそう思っていたのか、どちらかでないか。
胴体の断面積の情報が入っていない式は、やはり誤りだと思います。
じゃま
- 15>
実際の断面積ではありませんが、等価抵抗面積という指標があります。
こちらは、翼面積、胴体の断面積などすべての抵抗要素を含めているので
いかがでしょうか
抵抗係数×基準面積
断面積基準の抵抗係数なら、雷電のような太い流線型が、彩雲のような細い円筒を下回る場合もあるのでは?
重量(の**乗)あたりの抵抗面積という指標の方がサイズの違う機体の空力的洗練度を比較するのに適当なように思います。
山名正夫さんは、重量あたりの抵抗面積/推進効率をプロットして、
彗星<烈風<雷電<零戦
となっています。(小さいほど優秀)
い
- (私は話題の文献を持っていないので、記号が異なっているかもしれませんが。)
機体の相当抵抗面積であるCD・S/ηは、実機のエンジン出力が分かっていれば、実機を飛ばして速度を測ることによって得られます。(高度、出力、速度が分かっていれば、カタログ値から計算できるということです。)
CD・S/η=Aとおきますと、この飛行実験から得られる値はAなのです。CDの値が得られるのではありません。
ηの値が分かればCD・Sの値がわかります。CD・S=Bとしますと、上述同様、Bの値が分かるだけでCDの値が得られるのではありません。
Bは、胴体も主翼も尾翼も含めた機体全体の値です。Bを面積で割って無次元の係数を表に出す(業界の習慣?の)ためにSを導入したのだと思います。
じゃまさんのおっしゃるようにSを機体の前面投影面積としても、主翼面積を採用しても、尾翼面積を採用しても、意味が無いと思います。Bが定まっていますので、Sを変えればCDが変るだけでさほど意味はないと思います。(前面投影面積では奥行き方向の主翼面積が分かりませんので、Sとしては主翼面積ということになるのではないでしょうか。)
大切なのは、CD・S=B全体の値です。異なる機体に対して、Sで割ったB/S=CDを比較してもナンセンスです。
雷電を設計するにあたり、採用雷電と異なり、エンジンの最大径を胴体の最大径とするような機体は考慮されていなかったのでしょうか? 模型の風洞実験とかでCD・Sの値があれば良いのにね。
なお、(9)に関してですが。
エンジン出力は速度の3乗に比例します。(推力=効力は速度の2乗ですが。)
また、一般に戦闘機の水平最大速度における主翼の揚力係数CLの値は0.1〜0.2程度なので誘導抗力は極めて小さくなります。つまり、機体重量は水平最大速度にほとんど影響しないということです。CD・S/ηで決まります。
ちょん太
- >>17 ご指摘感謝します。プロペラ機とジェット機、馬力と推力がごっちゃになっていました。>>9の書き込みはsqrtを3乗根に訂正いたします。
ところで、誘導抗力係数は以下のように示されますので、
http://www.grc.nasa.gov/WWW/k-12/airplane/induced.html
水平飛行での誘導抗力は、機体重量の自乗に比例し、速度の自乗に反比例することが分かります。あと重要なのはアスペクト比ですか。プロペラ機の最高速度付近でどの程度の影響があるのかは、後日「零戦」「雷電」あたりで計算してみることにします。
ちなみに、亜音速の航空機の有害抗力の内訳は、ほとんどが摩擦抗力で、圧力抗力はわずかのようですね。
>>12-13もありがとうございました。
太助
- 堀越さんはどんな式で計算していたのでしょうね。
Vmax^3 = 定数*η*馬力/(Cx*翼面積)
の簡単な形にすると「零戦」にでている数値を代入した場合に定数が13000-18000とかなりぶれてしまいます(まあ16000ぐらいに固定しても、Vmax(knot)で見れば大した誤差ではないですが)。
とおり
- 式自体は簡単ですよ。
速度をVとおき、エンジンの出力をP、プロペラ効率をηとすれば、推力Tは、
TV=ηP
です。(飛行高度での)空気密度をρとおくと、
T=抗力=(1/2)CD・S ρV^2
です。両式より
CD・S/η=2P/(ρV^3)
となります。
データの単位を(MKSに)あわせて代入すれば、CD・S/ηが求められます。
ちょん太
- >>19 どのような式を使っていたのかは非常に興味がありますね。手元に該当本「零戦」がありませんのでなんとも言えませんが、確か堀越さんは零戦の部材に穴あけを指示するなど重量軽減にも意欲的だったはずです。最高速度を推定する式に「重量」が入っていた可能性もおおいにあるのではないでしょうか。
それとも
・部材の穴あけ→重量減→加速度があがる。上昇速度があがる。
・部材の穴あけ→強度減→最高降下許容速度がさがる。
と考えた方が素直かな。最高降下許容速度の件なんかは全くの想像ですが。
要求仕様に何が含まれていたか。設計するにあたり、どの要求仕様が厳しかったのか。要求仕様のことだけをターゲットとする設計者なのか、他の項目をも気にする設計者なのか。組織内の技術基準がどうなっていたのか。
調べたらわかることもありますが、調べようのないことも多いですね。せめて、工数のかかる「部材の穴あけ(穴抜き?)」の目的が何だったのかが判ればよかったのですが。
太助
- >>21 最後の「穴抜き?」はさすがに変な表現でしたね。「肉抜き?」あたりに訂正します。
太助
- なるほど、19の式で「定数」としていたところが、20の式では2/ρに対応しますね。
>>21
機体の形・馬力が同一で重量だけ変化した場合、19の式だと微妙にη/Cx(20だとCD・S/η)が変化すると考えています(したがって式に直接は入らない・・・かな)。
とおり
- >15
機体の空気抵抗を直接示すのは等価抵抗面積ですが、
物理量が「面積」なように機体規模の影響が出易い項目なので、何か適当な代表面積で割る事で無次元化したのが抵抗係数
航空機の場合、慣例的に主翼面積を代表面積に用いる
程度に捉えたら如何でしょうか?
機体の前面投影面積は余り見かける数字ではないので、主翼面積を用いる慣例を廃してまで行うのは賛成しかねます。
『零戦』の「表6の脚注にある式」は、書籍化する際に抜けたと思しき () を付け加え、「飛行機の空気抵抗」を抗力と置き換えると
抵抗係数 = 抗力 ÷(0.5 x 空気密度 x 速度の二乗 x 主翼面積)
抵抗係数 x 主翼面積 = 抗力 ÷(0.5 x 空気密度 x 速度の二乗)
等価抵抗面積 = 抗力 ÷(0.5 x 空気密度 x 速度の二乗)
となるので、()抜けの誤記を修正し、主翼面積を代表面積とする慣例を受け入れれば、特に問題は無いと思います。
等価抵抗面積に対する機体規模の補正手段としては、代表面積ではなく質量を割る手法もあるみたいです。
逆数にすると、翼面荷重ならぬ抵抗面積荷重といった感じですね。
mikey
- >3
『零戦』表27だと「実機プロペラ効率」は、A6M3=0.76、J2M1=0.70、J2M2=0.74、A7M1=0.72、となっています。
振動対策でプロペラ効率が十数%悪化する事を加味すると、J2M2やA7M1のプロペラ効率は良すぎな様に思えます。
表27における「風試Cx-min」と、付加抵抗の分を補正した「実機Cx-min」を比較すると
A6M3 0.0187 → 0.0204(1.09倍)
J2M1 0.0207 → 0.0236(1.14倍)
J2M2 0.0195 → 0.0260(1.33倍)
A7M1 0.0147 → 0.0195(1.33倍)
といった感じで、J2M2やA7M1の悪化率は高めです。
先のプロペラ効率も加味すると、プロペラ効率を良すぎに設定した反動で、付加抵抗の補正量を大きめにしている様に思えます。
表27では、J2M2以降の機体(「A7M1性能計算書」を除く)に対して、「発動機冷却」の補正量が大きめとなっています。
勘ぐり過ぎかもしれませんが、「発動機冷却」の項目で帳尻を取っているのではないかと少し疑っています。
mikey