実録Ans.Q外伝
−巨大なボランティアシステムの軌跡を辿る−


旧式兵器勉強家 BUN
bun@platon.co.jp





−Ans.Qとは?



 warbirdsの硬派の顔として知られるAns.Qコーナーは、日々発展を遂げ虚実取り混ぜた巨大なデータの山をなすに至りました。ここまでの発展の影には、途切れることなく続いた、理事長F4Uさん始め、本当に様々な方達の善意と情熱があった訳ですが、日々訪れる人々も増え、今や、遂に歴史を必要とする時代に突入したものと感じます。
 しかし、Ans.Qとはいったい何なのでしょう。誰かが質問をを書き込むと、何処からともなく誰かが無償で資料を探索しては回答するのは何故なのでしょう。やがて分野は広がり、飛行機のみに留まらず、実に多様な分野にまで広がり続ける質問に何故か絶えることなく現れる回答者。彼等は何処から来ていずこへと去ってゆくのでしょう。かほどにAns.Qの奥は深く謎に限りはありません。
 そもそも、このAns.Qコーナーはいつ始まったのでしょう?
一説には、ガダルカナルはタサファロングの海岸で膨大な滞貨を前にした補給士官が、どの銃砲にどの弾薬を補給して良いか、極限状況で問いかけたのが始まりとの説があり、一方では、1941年秋、ドーバー上空で初めて出現したFw190との戦闘で低空に追いつめられた英軍パイロットが「マーリンの緊急出力は何馬力ですか?」と発信した(ネットは国境を越えると信じられています)のが起源とも言われています。
 私としてはそれらの説より少し以前に、菩提樹の下で真実に至って独り楽しむある若いインド人宗教家に、「いい資料持ってるんなら、黙ってないで人にも教えてやんなよ」と帝釈天が諭したのが始まりとの説を採っております。その帝釈天の言葉に、彼は三日の間だけ猶予を乞い、独り真実を楽しんだ後、おもむろに立ち上がって回答を書き込みに向かったといいます。Ans.Qの回答がしばしば真実から三日離れたところにあるのはその為なのです。
 さて、本題に入りましょう。


Ans.Qの神話時代
−黎明期問答十番勝負―


 上記の如く起源が定かでない程に歴史のあるAns.Qのコーナーですが、小笠原氏の血の滲む奮闘のお陰で記録が残されている現存最古の記録である旧旧Ans.Q過去ログ、中でも「神話時代」と呼ばれる質問1〜100番台を見て行きましょう。
 そうでした。その前に、神話時代のAns.Qの特徴について現在解明されている範囲で若干の解説をしておくことにします。当時のAns.Qには現在のように署名がありません。何にせよ神話時代ですから、回答者に俗世の名前など無いのです。ですから、文体などを検討して「これは誰だ」とか詮索することは無意味なことです。もし、仮に似た文体の方が現在のAns.Qで活躍されていたとしても、それはその方の遠い御先祖が神話の登場人物だったということなのです。
 まず、最初に質問4番です。この当時は何事にもおおらかな神話時代ですから、Ans.Qは現在のように各分野に別れず、混沌としており、どんな質問も連番で並んでいたので航空機関連の最初の質問が4番なのです。


Q.「日本海軍機の「一一型」や「二一型」とかいうのはどのように読むのでしょうか?」

A.「一一型は「いちいちがた」二一型は「にいちがた」。坂井三郎氏著作の「零戦の真実」(講談社刊)を要参考」


 ああ、何と、シンプルかつ、現在にも通ずる質問でしょう。「じゅういちがた」とか呼んでる方、気を付けましょうね。神様に怒られます。そして、回答の見事さ、史上初のAns.Q航空機編の回答に、何と早くも坂井先生の著作が紹介されているではありませんか!何か運命的なものさえ感じさせる開幕です。質問は零戦、回答に坂井三郎、これでAns.Qの歴史は始まったのです!

 次の質問は7番です。


Q.「日本軍に複葉の戦闘機(偵察機とかはなしで)は存在したのでしょうか?」

A.「たくさんあります。WW2開戦時の装備にも96式艦上戦闘機というものがあります。自衛隊は知りません」

A.「最終の複葉艦戦は95式艦上戦闘機です。96艦戦は単葉です。」

A.「95式まででしたが、96式艦戦は単葉で96式艦攻は複葉でした。」


 いきなり、誤回答です。そしてツッコミ。更に話を艦攻にそらして終わっています。
 あくまで神話時代の神々の大らかなやり取りですので、批判は一切無用ですが、よく味わって欲しいところです。そう、これは凄い。現在のAns.Qの典型的パターン「誤回答→ツッコミ→そらし」が航空機分野二問目の回答に於いて、既にその原型がクッキリと刻まれているのです。ああ天の下、新しき物など存在しません。偉大なるかな神話時代…。

さて、少し飛んで11番を見ます。


Q「零式艦上戦闘機は第二次世界大戦の日本海軍パイロットのあいだでは、なんと呼ばれていたんでしょうか?「れいせん?」「れいしきせん?」「れいしきかんじょう?」」

A「これは昔、なんかの本で読んだんですけれど、一般にみなさん「ゼロセン」て呼んでますよね。でも当時の戦闘機乗りは「れいせん」て呼んでいたそうです。(たぶん朝日ソノラマの戦記文庫に書いてあった)

A「確か朝日ソノラマの渡辺洋二さんの「大空シリーズ」のどれかで書いてあった「零観空戦記」には「零戦」は「レイセン」と「ゼロセン」の二つの読み方が実働部隊で用いられていたが「零観」は「レイカン」ではなくて「ゼロカン」だけだった、と記されていました。


 再び感動です。ゼロセン呼称問題に早くも決着がついているではありませんか。後世の人々が感じる疑問は既に神話の神々があくまでも大らかに議論し尽くしていたということです。なお、最初の回答は僅かに無責任な気もしますが、そこは大らかな神話時代、そのこと自体は誰もツッコんだりいたしません。

また、少し進んで24番です。


Q.「五式戦について詳しく知りたいのですが参考になる本等ありましたら教えてください」

A.「光人社から出版している「飛燕・五式戦/九九双軽」雑誌丸編集部編がおすすめ。

A.「下の本ほどではありませんが世界の傑作機No.23「陸軍五式戦闘機」(文林堂)も良いのでは…。

A.「モデルアート5月号臨時増刊No.428「飛燕/五式戦」


 何と、丸スペ、世傑にMA増刊です。おお、これは「三種の神器」ではありませんか!恐らく三人の神々がそれぞれに司る神器を披露しているのだと思われますが、神々は署名しませんので一切は謎です。おそらく当時の神々は入手困難な希少文献を賢しらに披露したりせず、この様にシンプルな資料をもとに回答していたのです。手元にある物をよく読み込む、何と尊くも清々しい姿でしょう。この姿勢は学ぶべきです。幸いにもこれらの神器は現代に伝わっていますので、皆さんもぜひ拝観いたしましょう。

次に36番です。


Q「三菱ハ43や金星60型にはボッシュの低圧燃料噴射ポンプを改造したものを装備したそうですが、具体的にはポンプや各気筒への分配機構はどうなっていたのでしょうか?」

A無回答


 本来、神々というものは細かな事には拘らないものですので、当然こうしたメカのあまりにも詳細にわたる質問が出てきた場合、どこの神も降臨することはなく、沈黙回答となります。
 「神々なのに知らないのか」などと不遜な考えを持つ事は許されません。当時の神々は人数も少なければ資料の蓄積も今よりは僅かに少なかったのです。現在のAns.Qで同様の質問をすると、恐らく誰かがたちどころに回答してしまうのでしょうか、ハッキリ言ってですね、こんなこと、いきなり聞かれて答えられる方が異常なのです。ちなみに筆者はまったくわかりません。

 さて、次は41番です。


Q.「空冷星型エンジンのオイルはどうやって潤滑してたのか?誰か教えてください。オイルは全て下のシリンダーに溜まってしまうのではないですか?四式戦闘機は最高!」

A.私も知りたいです!(胃袋3分の1談)四式戦闘機は最高!(胃袋3分の1談)


 ここで注目すべきは質問の内容、回答の質などではなく、最後につけ加えられた祝詞です。この「四式戦闘機は最高!」との絶妙の祝詞によって本来名前が無いはずの神々が名を顕わし、質問者に向かって、あろうことか回答もせずに「四式戦闘機は最高!」と唱和しています。神話時代でも、ごく希にはこういう事もあるのです。現在でもAns.Qでは「何か」に触れると「誰か」が現れるとまことしやかに伝えられていますが、そうした民間信仰の起源がここに存在しています。

 しかし、この質問者はそれでは納まらなかったらしく、質問117番において再び、


Q「零戦の星型エンジンで、下に向いている二気筒に、どうしてオイルが溜まらないのでしょうか?」

A「溜まるらしいです。詳しくは「軍用機の話題」コーナーの胃袋3分の1の「ひとこと」のところを注意深く読んでください。」


 と、たたみかけています。下の二気筒とは何番と何番を指すのか等と考えても仕方がありません。疑問という物は解消されない限り消えない、というごく当たり前のことなのですが、この質問者が納得のゆく答えを見つけられたことを祈ります。

 上記の如く神話時代の回答は短く簡潔で、大変味わいの深いものですが、中でも味わい深いのは難問にぶつかった際の回答です。
 質問177番です。


Q.太平洋戦争当時のアメリカ空母の命名基準って何なんですか?

A.アメリカ独立・南北戦争当時の古戦場じゃないですか?

A.偉人名(B.N.リチャード)とか蜂(ワスプ)とか、英国地名(エセックス)とかいろいろあって、基準なんてあるのか??

A.↑「エセックス」って地名、アメリカにありませんでしたっけ???ま、基本的には南北戦争などの古戦場だと思うんですけれど、例外もあるらしいです。

A.基本は古戦場みたいですね。護衛空母は地名(海のね)が多いんだけど、そいえばシャングリラみたいな架空の地名もあるね(笑)、やっぱり基準なんて無いんだ


 どの神々も手元に全く資料のない質問に対して、鳩首して正解を探っている様子がうかがわれ、頭が下がります。これを「全ての回答が間違っている」と判断する向きもあるとは思いますが、それは神話時代Ans.Qの正しい読み方とは言えません。正しい読み方は「全ての回答を継ぎ合わせると真実に近くなる」と読むべきなのです。このように、手持ちの資料が無いのに真実に近づけるとは、やはりめでたき神ながらの世ならではのことでしょう。

 次に新種の神の降臨について、触れておきましょう。
 質問126番です。


Q.太平洋戦争中、海上護衛戦目的に開発された短射程軽量砲の12cm砲、20cm砲について教えてください

A.「戦前船舶」第二号に、800門製作された、という記述があります。あと、97式中戦車に短12cm砲を搭載したらしいのですが。


 この回答を行った神は、今までとは少々趣の異なる神で、おそらく二号を持っているのですから、当然一号も持っており、「戦前船舶」の創刊以来の読者と考えて良いでしょう。段々とAns.Qも回答者の層が厚くなってきたということでしょうか。

 さて、最後になりますが、昨今は常識となりつつある長文回答の始祖ともいうべきれいを紹介いたします。
 少し番号をさかのぼりますが、質問47番です。



Q.星型エンジンの構造

A.これを言葉だけで説明するのはチョー難しいのですが、ちょっとチャレンジ!まず、特徴的なのはコンロッド(ピストンとクランクをつないでいる棒)に大きさの違うものが二種類使われているということですね。主接合棒なんて時々書かれるメインコンロッドという大きな親玉がいて、同一列の残りのコンロッドは全てコレにつながっていて直接クランクシャフトとつながれていません。複列の場合、大体前列は一番上の気筒がこれで、後列は一番下がそうです。(回転バランスからも対称位置とするのが望ましい)この構造ですから燃焼は時計回り……………


 と、延々と回答文が続きます。当時のAns.Qはこの様な長文回答には全く向かない構造になっていましたが、数度に分けて情熱的に書き込まれています。
 今となっては、この回答を書き込んだ人物の名を知る術は、もう全く、全然、ありませんが、非常に初期のAns.Qにおいて、このような回答が行われていたことに注目して頂きたい。市販のミリタリー系の出版物では全く触れられない、こんな分野での質問に答えられるだけの体制をAns.Qのコーナーは最初から持っていたのです。単に戦史系の掲示板に終わらずに内容を広げ、深化できたことの萌芽のような物がこの回答中にあるのではないでしょうか。我々は、こんな知識がたまに得られることが嬉しくて此処にいるのではないかと思うことがあります。

 ちょうど時間となりました。
 大らかで素朴な神話時代が終わり、200番台以降のAns.Qには風雲急を告げる発展期が訪れます。無署名の影に見え隠れする、アイツの影、影、影、次回十番勝負を刮目して待て!

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