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ノースアメリカン AT-6 テキサン(Texan:テキサス人) 高等練習機のベストセラー

 AT-6 はアメリカ陸軍の傑作高等練習機です。アメリカ海軍(SNJ)、英国空軍(Harvard)ほか世界各地で広く使用され(日本の航空自衛隊も使用した)、現在でも数多くの機体が飛行状態を維持しており、日の丸を付け零戦役で映画に登場することが多いことでも知られています。

AT-6(9.4K)零戦に似せて改造された AT-6
通称「テキゼロ」、あるいは「トラゼロ」。スピナー付き三翅プロペラや単座の水滴風防、カウリングから風防にかけての盛り上がりなど造型的には良く出来ている。


 AT-6 の原形は、1935 年に開発された鋼管羽布張り胴体・金属製主翼・固定脚の初頭練習機 BT-9(Basic Trainer 9, 社内呼称 NA-19) でした。BT-9 の設計には当時ノースロップ社で全金属機設計の第一人者と見られていたドノヴァン・バーリン(Donovan Reese Berlin)が参加しており、BT-9 の主翼は平たい中央翼の左右に外翼をボルト留めしたノースロップ・ガンマ直系の構造を有しています。この構造はダグラス DC-3 やコンソリテーデッド PBY カタリナ飛行艇など、当時の金属機に好んで採用されたものでした。BT-9 にはエンジンを R-975 400hp から R-1340 500hp に強化した海軍向けのタイプがあり、これを NJ-1 と呼んでいます(社内呼称 NA-28)。1935 年から 1936 年にかけて BT-9 が 40 機、NJ-1 が 50 機生産されました。

 なお、BT-9 の輸出仕様は na-16(大文字ではなく小文字の na)と呼ばれましたが、このうち2機(社内番号 NA-37 および NA-47)は 1937 年〜1938 年にかけて製造権とともに日本海軍に売却されています。na-16 を独自に改良し、エンジンを中島「寿」に換装した機体が九州飛行機によって開発され、二式中間練習機(K10W)として 176 機が生産されています。


K10W(8.5K) 二式中間練習機 K10W
胴体は全金属製となり、垂直尾翼形状も異なっているようだ


 1937 年、米空軍は引き込み脚を備えた戦闘訓練可能な高等練習機を発注し、これに応えて作られたモデルが BC-1(Basic Combat trainer 1, 社内呼称 NA-36) です。BC-1 の胴体はまだ鋼管羽布張りでしたが主脚は完全引き込み式となり、これに合わせて主翼(中央翼)も改変されていましたが、その外側にボルト留めされる外翼は BT-9 と同じものでした。BC-1 は 177 機が生産され、胴体を全金属製にした改良型 BC-1A(社内呼称 NA-55)に引き継がれます。この BC-1A は 93 機が生産され、中央翼の燃料タンクを改良した BC-1B が 1 機生産されたところで呼称が AT-6(Advanced Trainer 6) と変更されます。
 AT-6 シリーズは 1940 年から 1950 年まで各型あわせ約 17000 機が生産され、派生型やライセンス生産型も含めるとシリーズ総数は約 21000 機に達します。AT-6 はフラップ・可変ピッチプロペラ・引き込み脚・完全密閉風防を持ち、空中での操縦性には癖がなく、頑丈無比な機体構造のため練習機として好評でした。欠点としては主脚間隔が狭いうえ三点姿勢が比較的高く、地上での前方視界が悪くグラウンドループを起こしやすい悪癖を持っていましたが、これは滑走・離着陸に細心の注意を要する高性能戦闘機への移行過程に最適な特性とみなされました。

 米軍では 1950 年代まで AT-6 を使用したあと、より近代的な T-28 トロージャンに交代しました。退役した AT-6 の多くは民間や発展途上国に売却されています。

 AT-6 の派生型には単座戦闘機型の NA-50, NA-68(P-64), NA-69, NA-72, NA-74 が存在します。また大戦後には通信機能を充実させ目標指示ロケット弾を搭載可能にした LT-6G 前線観測機が製作され、朝鮮戦争で大活躍を見せています。
 1938 年には AT-6 をベースにした複座軽爆撃機 NA-33 が製作され、オーストラリアに輸出されました。これは同地において制式採用され、コモンウェルス CA-3 ウィラウェイ(Wirraway) として 755 機が製作されています。更に 1942 年にはウィラウェイを単座化した戦闘機型 CA-13 ブーメラン(Boomerang)に発展し、約 250 機が量産されています。
 これら制式な戦闘/攻撃機型以外にも、戦後に払い下げ/輸出された AT-6 の一部は現地改造で機銃ポッドや爆弾/ロケット弾を搭載し、対ゲリラ作戦などに使用されました。

AT-6B(24.4K) 射撃練習機仕様 AT-6B
ミュージアム・オブ・フライングの機体。計器板上に照準器の投影ガラスが残っている。



SNJ-5(22.6K) SNJ-5 "War Dog"
終戦後日本の航空自衛隊に供与され、1974 年に用廃後アメリカに買い戻され飛行状態にレストアされ、エアショーパイロットのジョン・コールバー(John Collver)に転売されたという歴史を持つ機体。ほぼノーマル仕様だがコールバーは華麗なエアロバティックを披露して AT-6 の高運動性を見せてくれる。



AT-6F(18.0K) 後期生産型 AT-6F(SNJ-6)
キャノピーの枠が減り、風防後端が一体整形のプレキシガラスとなった。忍者タートルのノーズアートは御愛敬。



NA-50(40.0K) NA-50
R-1820 を搭載した単座戦闘機型 NA-50。1999 年リノレース会場に展示された機体。



(文・ささき)


緒元(AT-6G)
製作1940年
生産数21342 機(全タイプ合計)
乗員2
全幅12.8m
全長9.0m
全高3.3m
主翼面積--
乾燥重量--
全備重量2548Kg
武装なし
発動機P&W R-1340 空冷7気筒 550hp
最高速度335Km/h
実用上昇限度7071m
航続距離1200Km

米陸/空軍テキサン(BT-9/BC-1 含む) サブタイプ一覧
サブタイプ生産数特徴
BT-9(NA-19)42固定脚、鋼管羽布胴体、R-975 400hp。
BT-9A(NA-19A)40射撃練習機。
BT-9B(NA-23)116BT-9 の小改良型。
BT-9C67R-1340 550hp を搭載。
BT-9D(NA-26)1主翼・尾翼を改良。
NJ-150BT-9C の海軍向け仕様。
NJ-21NJ-1 をレンジャー V-770 600hp に換装。
BT-14(NA-58)285BT-9 の発展型、R-985-25 450hp。
BT-14A27BT-14 のエンジンを R-985-11 400hp に換装。
NA-221BT-9 を開放風防に改造、R-760 225hp に換装。
BC-1(NA-26/54)177引き込み脚、鋼管羽布胴体、R-1340 550hp。
BC-1A(NA-55)92全金属製胴体。
BC-1B1燃料タンク改良、AT-6 の原形。
BC-23BC-1 の改良型。R-1340-45 550hp
AT-6(NA-59)94R-1340-47 550hp。
AT-6A(NA-77)1549R-1340-49 550ph。
AT-6B(NA-84)3997.62mm 固定銃 1 + 旋回銃 1 を持つ射撃練習機
R-1340-AN-1 600hp。
AT-6C(NA-88)2970構造材の一部に鉄鋼、外板の一部に木材を使用した戦時省資源仕様。
AT-6D(NA-88)4388代用素材の使用を廃止。
XAT-6E1AT-6D をレンジャー V-770 600hp に換装。
AT-6F(NA-121)956構造強化、キャノピーを改良。
931 機は SNJ-6 として海軍に引き渡し。
T-6D(NA-168)2068既存機改造の近代化仕様。
T-6G(NA-168)770T-6D と同仕様の新造機。
LT-6G59T-6G から派生した陸軍向け前線観測機。
T-6J285カナダ Noorduyn ライセンス生産型、T-6G と同仕様。
AT-162610カナダ Noorduyn ライセンス生産型、AT-6A と同仕様。

米海軍 SNJ サブタイプ一覧
サブタイプ生産数特徴
SNJ-1(NA-52)16BC-1 の海軍仕様。
SNJ-2(NA-65,79)61SNJ-1 に R-1340-56 550hp を搭載。
SNJ-3(NA-77)296AT-6A の海軍仕様。
SNJ-3C55SNJ-3 の着艦フック装備型。
SNJ-4(NA-88)2400AT-6C の海軍仕様。
SNJ-5(NA-88)1357AT-6D の海軍仕様。
SNJ-5C?SNJ-5 の着艦フック装備型。
SNJ-6(NA-121)411+931AT-6F の海軍仕様。
SNJ-7?T-6G の海軍仕様。
SNJ-7B?SNJ-7 の射撃練習仕様。

英軍ハーバード サブタイプ一覧
サブタイプ生産数特徴
Yale I(NA-64)119BT-9 の英国仕様。
Harvard I(NA-49)400BC-1 の英国仕様。
Harvard II(NA-66)600AT-6 の英国仕様。
Harvard IIA(NA-76)450AT-6C の英国仕様。
Harvard IIB(NA-81)125AT-16 の英国仕様。
Harvard III(NA-88)?AT-6D の英国仕様。
Harvard IV270T-6J の英国仕様。

派生型など
サブタイプ生産数特徴
NA-64111BT-9 のフランス向け仕様、追加 119 機はイギリスに転送。
NA-331AT-6 の複座軽爆型、豪州向け仕様。CA-3 の原形。
NA-441BC-1 の単座戦闘機型、R-1820F-75 775hp。
NA-507NA-44 のペルー向け仕様、R-1820-F52 870hp。
NA-686NA-44 のシャム向け仕様、R-1820-77 870hp。
単座戦闘機型。のち P-64 として米軍が接収。
NA-6910NA-44 のシャム向け仕様、R-1340 550hp。
単座戦闘爆撃機型。のち A-27 として米軍が接収。
NA-7230NA-44 のブラジル向け仕様、R-1340 550hp。
NA-7412NA-44 のチリ向け仕様、R-1340 550hp。
CA-3 Wirraway755オーストラリアでライセンス生産した複座軽爆型。
CA-15 Boomerang250?CA-3 から発展した単座戦闘機型。
K10W 二式中練176?BT-9 の日本における改良型。

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