914  艦船の旋回性能について質問です。

 漠然とした質問で大変恐縮ですが、蒸気機関普及後の艦船に求められる旋回性能(用兵側の要求と実際の性能とそれに対する用兵側の評価)は歴史的にどのように推移しているのでしょうか?

 魚雷登場前は衝角戦術に対応することを求められ、魚雷登場後は魚雷を回避する事が念頭に置かれたのではなかろうかと思うのですが、だとしたら潜水艦以外からの水上艦にたいする雷撃の可能性が無くなった現代は何を基準に旋回性能を求めてるのかわかりません。また、爆撃や雷撃を回避する上で個々の艦の旋回性能について、用兵者たちが満足していたのか不満だったのか・・・目立った問題を抱えていた一部の艦についてしかわかりません。
 機関の性能と速度に関する資料は割と見つけられるんですが、旋回性能に関する資料はなかなか見つけられず困っています。
おうる

  1.  現代の水上艦艇に対する主たる脅威は、機雷を除けば、対艦ミサイルと魚雷、それに空爆であり、回避よりも、いかに探知し迎撃するかに重点がおかれると思います。したがって、速度や旋回性能は以前よりも重視されないはずです。
     超低空から飛来する対艦ミサイルや航空機、ステルス機、潜水艦からの脅威に対応するのに、旋回性能がよいということは重要かもしれません。しかし、直前まで探知できなかった場合、より重要なのは近接対空火器や欺瞞装置の即応能力ではないでしょうか。
     高速が有利とされた時代の細長い船型は、現代では必要とされていませんし、可変ピッチ・プロペラの採用により、旋回能力は随分と改善されているはずです。しかし、旋回性能がよければ回避できるかというと、それは二義的なものになろうかと思います。
     したがって、現代の艦艇に求められる旋回性能は、一般船舶と同じく、衝突回避が基準になろうかと愚考しております。
     もちろん、浅海域や機雷の敷設される海域での行動が求められる場合は別問題となりますが、それは質問のご趣旨に沿うものではないと思います。
     また、用兵者が満足していたかどうかというのは、対艦ミサイル、特にシー・スキマーの脅威が重視される以前の話でしょうが、艦種によって、艦によって異なると思います。つまり、巡洋艦や駆逐艦のような艦艇の場合は高速力発揮との兼ね合いになるでしょうが、松級のような駆逐艦の場合はどうかと考えていくと、あまりに広範となり、資料も持ち合わせておりませんので、お許しください。
     
    hush

  2. 対艦ミサイルがホップアップ機動を取る理由の一つに『レーダー反射面積を増大させるため』とあることを考えると、現代艦艇であっても回避運動を行うこと(そのために旋回性能を求めること)は有り得るのではないでしょうか
    むらーびと

  3. >2
     SSM-1B(90式艦対艦誘導弾)の場合、飛翔速度は1150km/h、秒速に直すと319m/sです。そして、目標の約30kmでレーダーの探知可能位置に到達します。そこから、ポップ・アップする場合、通常のシー・スキマーは目標の10km手前で行います。したがって、仮に30km手前で探知した場合1分30秒の、10km手前での探知の場合は30秒の余裕があります。
     その30秒から1分30秒で急速回避をしてレーダー反射面積を最小にするとします。しかし、回避行動は人の命令で行うものですから、タイム・ラグが生じます。また、船は自動車のようにすぐに舵は効きませんし、相手はレーダーで追尾してきます。しかも、30ノットで航行していたとしても、56km/h、秒速16m/sの移動速度でしかないのです。
     このこと考えると、探知面積を極小化するより、自動化されたCIWSで迎撃したり、チャフやフレア、ECM等で無効化するほうが有効なのです。
     実際、SSMがポップ・アップPop-upした時に迎撃されて撃墜される率が高くなってきており、このため、初期のものは別として、現代の対艦ミサイルはポップ・アップしないのが通常になっていますが、これは回避能力の向上に由来するものではないのです。
     したがって、対艦ミサイルのために旋回性能を向上させるというのは、ないよりはましという程度のものであり、二義的なものということになるのです。
     
    hush

  4. 実際、アーレイ・バーク級や本邦のDD・DDGの旋回性能は(全長や排水量を考慮すれば)相当にコンパクトなものです
    あれが『衝突回避のため』のみであるとは、到底思えませんが……

    前後方向に長さのある艦艇の場合、正横を向けているよりは正対した方がレーダー反射面積(あるいは被弾面積)は各段に減少することは想像に難くないことと思いますが、いかがでしょうか


    むらーびと

  5. >4
     「衝突回避のためのみ」と書いた記憶はないのですが…。私が書いているのは、「現代の艦艇に求められる旋回性能は(中略)衝突回避が基準」であり、「対艦ミサイルのために旋回性能を向上させるというのは(中略)二義的」であるということです。したがって、対艦ミサイルに対する防御としては、「探知面積を極小化するより」、「近接対空火器や欺瞞装置の即応能力」のほうが重要であるというのが主旨です。ただ、そのように読まれてしまったのは、私の文章能力の問題でしょうし、煽るような書き方になった部分は反省すべきかなと思っています。
     それはともかくとして、現代の艦艇が旋回能力を向上させたのは、1で申しました「高速が有利とされた時代の細長い船型」が採用されず、安定したプラットフォームと搭載兵装の合理的な配置のために全長が短縮された結果であろうと思っております。
     
    hush

  6. 対艦ミサイルには止まっているも同然の水上艦ですが、魚雷 (現代なら当然誘導タイプ) には旋回性能を高めるとこで、回避ないしは被害を局限する可能性が高まるのではないでしょうか。
    DDかず

  7. >6
     ですから、1で「潜水艦からの脅威に対応するのに、旋回性能がよいということは重要かもしれません」と書いておりますが。
     
    hush

  8. >7
    その戦術的意図で高い旋回性能を得ているのではないのでしょうか。一般船舶基準や全長短縮による結果ではなく。
    DDかず

  9. >6
     あっ、御免なさい。
     7ゆえに衝突回避が基準ではないということですね。
     そういう意味では、ガスタービン、電気推進といった、急速に全力発揮できるとか、可変ピッチ・プロペラの採用というのは、攻撃回避という努力の現われなのでしょう。
     ただ、仰られるように誘導魚雷で攻撃された場合、旋回回避って、どこまで有効なのかと思っております。また、最近の魚雷は非常に高速なものも現れていて、多分、非誘導型だと主もいますが、200ノットに達するものも現れています。
     したがって、回避よりも、デコイのようなもののほうが有効であり、それより前に、ステルス化のように、見つからないようにすることのほうが肝要であろうとは思っています。
     
    hush

  10. >8
     一般船舶基準で考えると、明らかに現代の軍艦は高機動です。
     これは比較対照物があまり違いすぎますが、VLCC(30万総トン級の超大型石油タンカー)だと、直角に曲がるのに10-15分、最小旋回半径は900mで、一周するのに30分、満載状態では、全力から静止まで3-4kmもかかってしまうわけですから(8kmという資料もあります)。
     したがって、「衝突回避が基準」というのは極論です。撤回します。
     御指摘感謝申し上げます。
     
    hush


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