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Wikipediaの隼鷹型空母の項に、 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E9%B7%B9%E5%9E%8B%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%AF%8D%E8%89%A6 >燃料満載・燃料未載の場合、艦橋が右舷にあるため右舷に7度傾斜した。 (↑燃料によるトリム調整が出来ない状態の意味か) との記載があります。 丸メカなどでこんな欠陥があることは見たことがないので、大変驚きました。 この種の問題は、当然公試の時点で判明して対策が取られるはずだし、 事実なら被害時に危険な以前に、平時の搭載機の運用にも多大の支障が出て、 その旨の記述が複数出るはずですが、見聞した記憶はありません。 私自身は、事実とは思えないのですが、本当のところはどうなのでしょうか? 2012.9.17.21:05記 NG151/20@内職中 |
- 船は常時動揺するし、載貨状態で前後左右傾く(動揺がなくても水平でない)のは普通です。造船所で、甲板上に重量物を偏載する傾斜・強度計算してました。
傾斜7度くらいは、空母の運用者はもっと過酷な条件で発着艦していて、何の支障もない角度だったんでしょう。
燃料満載、未載とも、一時的な極端な状態です。もっと長い時間いる通常状態では、もっと気にならない=特に対策の必要のなしの傾斜角だったのだと思います。
それより、乾舷(水面から最も近い開口までの高さ)が減ることは、直接に残存性に影響します。乾舷が0になった時船は沈没します。
飛鷹副長は、少しでも沈没までの時間を伸ばそうとして、乾舷を僅かでも取り戻したいと考えたのではと思います。
飛鷹の水線幅は26.7mとあるので、傾斜角7度による乾舷の減少は、26.7m×tan7度/2=1.7m。喫水は8.15mで、乾舷もそのくらいと想像すると、1.7mは大きいです。
この話の出典原本読みました。桜庭さんも出てきて、飛鷹は沈没して、隼鷹は生き残ったところの差がそこはかとなく書いてあるように思いました。
IWA
- 質問者様
同型の隼鷹が戦後に解体のためドック入りする写真があります
多分燃料無しの状態と思われますが、ちゃんと水平に浮かんでます
7度横傾斜しても平気な造船官が居たとはチト信じ難いですケドね
>1.
>造船所で、甲板上に重量物を偏載する傾斜・強度計算してました。
でしたらまず飛鷹型の艦橋+煙突の見積重量はおよそ何トンか、また艦橋の位置に何トン偏載したら7度傾斜となるか、ご教示いただけませんでしょうか
駄レス国務長官
- だいたいの手計算で、艦橋の位置で船を7度傾ける重さは、船体重量の0.9%くらいです。
w=tan7度×(基準24,000〜公試27,000トン×1m)/13.5m=218トン〜245トン
艦橋の見積重量は分かりません。2ブロックで搭載できそうだから、感じこれより重い気がします。
上の計算は、GM値(メタセンタ高さ)をだいたいこんなもん、0.04B=0.04×26.7m(船幅)としました。実船のGM値は、福井静夫さんの本にあったような気がします。
同偏載重量での傾斜角(tanθ)は、GM値に直接反比例します。
GM値は、軽荷〜満載で、5倍くらい変わる船があります。動揺周期を長く取る船(GM値の小さい船)ほど、そうです。空母は、動揺周期を長く取ったと聞くので、どの載貨状態(喫水)でも水平を保つのは難しくて、状態により7度くらいの傾斜にしてたというのは、ありそうです。
小傾斜というと5度〜最大10度くらいの感じで、もともと揺れているもの、動揺の中心が鉛直かどうかはそんなに気にならない、というのが船の感覚です。
第二次上海事変の時に、呉から駆逐艦に燃料物資満載で出港して、船が傾いて出て行った=満載ではそういう設計だった、というのを読んだことがあります。
ドック入りの時は、トリム調整をして船を水平にしてから引き込みます。 1点で接地すると船が折れます。
入渠用のバラストコンディションをあらかじめ計算してます。タンクがなくて、トリム調整できなければ重錘を置きます。
造船所にはこれなんだろという塊り=錘りを置いてます。
---
(計算説明)
横傾斜角の式
tanθ=(w×d)/(△×GM)
θ:傾斜角
w:偏載重量
d:重心からの横距離(飛行甲板半幅 13.5m)
△:排水量(基準24,000〜公試27,000トン)
このあたりに参考になる式が書いてあります。
www.nexyzbb.ne.jp/~j_sunami76/fukugen.html
IWA
- >3.
傾斜モーメント: w×d×cosθ (d×cosθ 偏載重量の水平距離)
復原モーメント: △×GM×sinθ (GM×sinθ 復原テコ長)
両者釣り合い: w×d×cosθ=△×GM×sinθ → tanθ=(w×d)/(△×GM)
・・・だから合ってますね
飛鷹型のGMは福田啓二「軍艦基本計画資料」によると
公試状態 28,000トン 2.47m
満載状態 29,968トン 2.67m
軽荷状態 21,769トン 1.69m
tan7°=0.1227・・・
w=△×GM×tanθ/d=727〜334(トン)
・・・だからまぁ妥当な気もします(小職の目見当で500トン前後)
確かに飛鷹型は翔鶴型や大鳳みたいに飛行甲板の中心線横ズレもなさそうだし、傾斜煙突も大鳳の前実験で建造中に急遽決まったモノですからね
このあたりは引き続き調査してみたいと思います
駄レス国務長官
- IWA様、駄レス閣下
詳細・綿密なご解説ありがとうございます。
この問題、興味を持ち出すと極めて奥が深く、隼鷹型以外にも
未知の点、伺いたいこと、知りたいことが次々と生じています。
仕事が忙しく、関連質問は日曜日になってしまう見通しですが、
ご指導、ご鞭撻よろしくお願いします。
まずは、皆様のご回答への御礼を略儀にて・・・
2012.9.21.2:20記
NG151/20@生活苦
- 皆様、あらためて伺います。
まず、本質問の前にも私は、
・島型空母では、艦橋と煙突他による偏載重量の処理は相当難しいらしい。
ということは認識していました。
駄レス閣下ご紹介のとおり、大鳳は飛行甲板の中心を左舷に1mずらしていますし、より大型で相対的に負担の軽いはずのミッドウェー級に至っても、舷側装甲を左右不均一(左舷190mm、右舷178mm、hush様のサイトより、左舷194mmとする資料もある)にする苦肉の策を採っています。
隼鷹型は、大鳳のためのテストベッドとしての日本初の純島型空母であり、様々な初期故障に遭遇したであろうことは予想していました。しかしそれを考慮しても、一時的にせよ7度の傾斜が受容され、そのままで就役していたとは未だに信じ難いことです。
軍艦は、15度以上傾斜すると艦としての機能を失うと聞いています(戦艦大和は、15度傾斜で機力、人力とも揚弾不能となって高角砲が使用不能になったと読みましたし、空母ホーネットも3本目の被雷で傾斜14度になった時点で復旧断念、退艦準備が発令されています)。
また、海戦の後半になれば各艦燃料未載に近くなり(レイテ沖海戦で実例あり、下記参照)、その状態で傾斜が生じる軍艦は、傾斜側への魚雷1本の命中でも致命的な事態になりかねません。
過去ログ
http://www.warbirds.jp/ansq/2/B2000467.htmlより
6.>SUDO様
>レイテ沖海戦で
>栗田艦隊がブルネイに帰還した時、残存駆逐艦は2隻でした
>5隻ほど燃料切れで脱落したんですな>甲・改甲・丙型の皆様
SUDO様
9.>大塚好古様
>小沢艦隊の五十鈴は残燃料12tで沖縄にたどり着きましたが、
>同艦は残燃料50tで機関への燃料吸い込みが出来なくなるため、
>最後は乗員が代わる代わる燃料タンクに入り、タンクの所々に残った燃料を
>手作業で吸い込み口に持っていったとか…(泣)。
多少傾いても目的地まで荷物を運べさえすればいい商業用の貨物船に対し、被弾→大傾斜→沈没の危険に曝される軍艦は、要求も運用も格段に厳しく、
>空母は、動揺周期を長く取ったと聞くので、どの載貨状態(喫水)でも水平を保つのは難しく
(IWA様)
の事情はあっても公試時に放置されたとは思い難く、本当に放置されていたのであれば、改善のために奔走した副長の尽力はもっと評価されるべきでしょう。
NG151/20
- ここで質問に移ります。
Q1.他国の空母の偏載重量対策は?
列強の空母に比して決して大型とはいえない隼鷹型の艦橋でこれほどの問題があるのであれば、遥かに巨大な艦橋構造物+αを載せている諸艦では、同様の問題が生じていたのでしょうか? またそれをどのように処理されていたのでしょうか?
特に8インチ連装砲塔4基に「バショウカジキ(Sailfish)の背ビレ」と揶揄された巨大な煙突を持つレキシントン級や、当時の主力艦並みの重厚長大な三脚檣を屹立させたイーグルやハーミーズでどのような対策がなされていたのか興味津々です。
Q2.主砲撤去中のレキシントンの逆偏載重量対策は?
レキシントンは、開戦時8インチ砲塔を5インチ連装高角砲に換装工事中で、高角砲の搭載が間に合わず応急的に28mm4連装機銃を搭載した状態で、珊瑚海海戦で戦没しています。
8インチ砲塔4基で合計1000t位になったと思うので、それだけのマスを撤去すれば重量バランスが崩れ、バラストなど撤去可能な代償重量物で均衡を取っていない場合、逆に左舷側が重くなってしまうのでは、と思いますがどのように処理していたのでしょうか?
左舷に大きく傾いて炎上するレキシントンの最後の写真を見ながら、上記の影響もあるのかなとつい思ってしまいます。
Q3.巨大重量物を飛行甲板に載せて、復元性に問題はなかったのか?
日本の空母は、改装後の赤城、加賀を除いて極めて低シルエットなのが特徴です。台風が多数襲来する環境下での就役を鑑み、復元性確保のため風圧側面積を厳しく規制したからだと聞きました。
対して上記に限らず、英米の空母は総じてシルエットが高く、エセックス級でも高角砲の背負い式配置が行われ、極めてトップヘビーに思われますが大丈夫なのでしょうか?
戦艦サウスダコタ級が、合計でも10t未満と思われる40mm4連装機銃を艦首に載せただけで、凌波性が著しく悪化したり、転覆したオクラホマの引き起こしに際して、先ず艦底に長大な櫓を装着してウィンチで引っ張ったり、と船体の末端に重量物を付けることは、テコの原理で船体に大きな負荷がかかると思うのですが、大丈夫なのでしょうか?
1万t余の小柄な船体に飛行甲板分嵩上げされた三脚檣を載せた初代ハーミーズのアンバランスな艦容を見ると
>大西洋だって荒天が多いはずなのに大丈夫なの?
と他人事ながら心配になってしまいます。
Q4.(蛇足質問)飛鷹型、隼鷹型?
私が初期に読んだ文献では「隼鷹型空母」の記述が多く、自分はずっと隼鷹型と呼んでいました。しかしIWA様、駄レス閣下とも飛鷹型であり、Wikipediaは「隼鷹型とも」と併記になっています。どちらが正しいのでしょうか?
以上、長文になりましたがよろしくお願いします。
2012.9.23.18:25記
NG151/20
- >舷側装甲を左右不均一
書いた記憶がないのですが…
すいません。
hush
- >7.
> 左舷に大きく傾いて炎上するレキシントンの最後の写真を見ながら、上記の影響もあるのかなとつい思ってしまいます。
同艦の被雷は左舷2本のみですから左舷大傾斜はとうぜんです
> 対して上記に限らず、英米の空母は総じてシルエットが高く、エセックス級でも高角砲の背負い式配置が行われ、極めてトップヘビーに思われますが大丈夫なのでしょうか?
各級のGM(満載時)は
レキシントン 2.23m
エンタープライズ 1.94m
エセックス 2.92m
ミッドウェー 3.54m
ですから復原性は問題無いんじゃないでしょうか
駄レス国務長官
- >8. hush様
>書いた記憶がないのですが…
申し訳ありません。私の勘違いでした。
私が、ミッドウェー級の舷側装甲の左右不均一の情報に最初に接したのが、80年代に読んだ月刊誌「シーパワー」(休刊)でした。
今回再確認のため「ミッドウェー級 舷側装甲」でヤフって二番目に出てきたのがhush様の下記のサイトで、その文中のミッドウェー級の解説文では
Midway.ミッドウェー.近代世界艦船事典The Encyclopedia of World ,Modern Warships.
http://hush.gooside.com/name/m/Mi/Midway/Midway.html
>飛行甲板89水線舷側部75-190mm
なので、確かに右舷装甲への言及はありません。
一方、筆頭に出てくる下記では
新実装空母 - 笠戸のしょうもない雑文
http://d.hatena.ne.jp/kasado/20050328/1112025514
>ミッドウェー級は飛行甲板の装甲が89mm、舷側装甲は左舷194mmに右舷178mm。
となっていて、両者を混同していました。申し訳ありません。
9.駄レス閣下
>同艦の被雷は左舷2本のみですから左舷大傾斜はとうぜんです
失礼しました。左右両舷に受けていたと記憶していましたが、誤りでした。
>各級のGM(満載時)は(数値は略)
レキシントン級のGM値が相対的に低いように思うのですが・・・
同級は復元性の問題から飛行甲板を高く取れず、天井がつかえる形になって艦首側に格納庫を設置できなかったと聞きますが、それとも関係しているのでしょうか?
>復原性は問題無いんじゃないでしょうか
ハーミーズはどうでしょうか?
NG151/20
- >10.
>ハーミーズはどうでしょうか?
GM=0.9mだからやや不足に見えるが荒天でも問題無かったとのコト ↓
http://en.wikipedia.org/wiki/HMS_Hermes_(95)
補足
HMSイーグルはアイランド重量バランスのため燃料中の500トンをバラストに用いたとのコト ↓
http://en.wikipedia.org/wiki/HMS_Eagle_(1918)
HMSアークロイヤルについては脚注の文献を参照する必要有り ↓
http://en.wikipedia.org/wiki/HMS_Ark_Royal_(91)
てか余計なコトばかり考えててご自身の生活は大丈夫なんでしょうか
駄レス国務長官
- >10
せっかくページを紹介して戴いたのに、いらぬことを書き込み、申し訳なく思っております。また、興味深い話を教えて戴き、ありがたく思っております。
その後、ミッドウェーの舷側装甲の左右不均衡について、各種資料を調べてみたところWarshipという雑誌の合本第3集にそのような話が載っており、他の本で右舷が7インチ、左舷が7.6インチと記載されているのを発見しました。1955年に舷側装甲を撤去しているので、これは本艦の最終状況ではありませんが、ミッドウェーのページの改定の際に掲示させて戴こうと思っております(ただ、7.6インチは193oですのでお示しになられた数値と1oだけ違いますが)。
なお、Q4につきましては、
http://www.warbirds.jp/ansq/21/B2001898.html
を御参照下さい。
hush
- ミッドウェーの舷側装甲厚の件ですケド
フリードマン著“U.S.Aircraft Carrier”に水線装甲帯 右舷7in、左舷7.6inとあります
同級計画時点で水線装甲帯7.6inの案が複数存在しますので、左舷が7inプラス0.6inでなく、右舷が7.6inマイナス0.6inと理解すべきでしょう
なお当時の米国なら0.6inは6/10inでなく5/8=0.625inでしょうから、7-5/8in=193.675mm、丸めると194mmとなります
ちなみに水線装甲帯長は同著によると512ft=156.06m、高さは不明ですがエセックス級と同一と仮定すると10ft=3.05m、左右の重量差は156.06×3.05×0.016×7.9=60.16(トン)となりますから、アイランドの見積重量に対しては大幅に不足ですね
駄レス国務長官
- >当時の米国なら0.6inは6/10inでなく5/8=0.625inでしょうから、7-5/8in=193.675mm、丸めると194mm
実は、この7.6インチというのは7’6”、つまり7インチ6ライン、すなわち7と6/12インチで190.5oであるという可能性は考えてはいました。しかし、当時のアメリカが8/8=1インチという工業規格を使っていたなどとは思いつきもせず、ましてや、これが7と6/8インチではなく、7と5/8インチで、7.625インチを丸めての表現であるというのは、想像を絶するものがありました。
インチねじが8/8=1インチという体系を持っているのも、これがアメリカ伝来のものであるからなのだと、ようやく納得したような次第です。と同時に、当時のアメリカでヤード・ポンド法で建造されたもののをメートル法で表記しているものの中に、こちらで計算してみると合致しないものがある理由も判明しました。
わずか1oの違いでありますが、その違いの中には私の知識を超絶する世界の広がりを感じました。御教授、ありがとうございました。
hush