224  艦船の後進速力について質問です。

 自動車等と違い、艦船では後進の必要性があまりありません。制動をかける際や港湾内で後進をかけることはありますが、接舷や離岸時はタグボートで曳航することが多く、後進をかける頻度は極めて低く、まして高速で後進する必要性などまったくといっていいほどありません(艦首側から着艦することを考えていた昔の空母では後進速度が必要だったのかもしれませんが)。
 そんな後進速力というのは、何を目標にして設計されるものなのでしょうか?

 たとえば固定ピッチスクリュの蒸気タービン船では後進用機関を設けなければなりませんが、必要性が低いものである以上、なるべく小さくしたい筈です。かといって小さすぎれば実用性が無くなり、艦船として必要な機能をおそらく損なうのであろうと思われます。
 必要性能を満たしつつ、後進用機関を最小にするために、どのような後進性能を目標としているのかを教えていただきたく、よろしくお願いします。
おうる

  1. 金剛型(2次改装)の例だと前進巡航が39,000shpで21kt、前進全力が136,000shpで30ktに対し、後進力量が38,000shpであるコトより、18〜20kt程度の速力性能を狙ったんじゃないでしょうか
    翔鶴型だと前進全力が160,000shpで34ktに対し、後進力量は1/4の40,000shpですから後進速力はやはり20kt前後となります
    (後進タービンは段落数が少ないのでとうぜん燃費は悪くなります)
    あと必要性については緊急避難の面が重要です
    艦首損傷、沈下して前進不能となり後進で帰還した涼月や帰還途中で自沈したリュッッオー(巡戦)などのハナシは有名ですね
    駄レス国務長官

  2.  これと言ったそのものズバリの確たる史料がありませんので、全くの推定でのということをお断りしますが、

     例えば旧海軍のテレグラフ(速力通信器)では、前進は最も低速の「微速」から最大速力を示す(実際はちょっと意味が異なりますが)「一杯」まで多数の速力指示段階があります。 この段階の数は発揮可能な速力と艦型によって異なります。

     一方で、後進の場合は、全艦種・艦型で「微速」「半速」「原則」「強速」「一杯」の5段階しかありません。 これは例規でそのように決められています。

     これからすると、機関全体として最も安定して発揮可能な後進速力(実際には機関出力)を通常使用の最大である「原速」に置き、それに基づいて最大馬力が決められるものと考えられます。

     “最も安定した速力”というのは、補機類も含めた機関装置全体で、長時間安定してその速力(所要馬力)が発揮でき、故障・不具合発生の可能性が最も低い、という意味です。

     もっとも、「原速」とは言っても前進原速と同じ速力を意味するものではなく、前進原速と同じ馬力(機関出力)ということです。 新造時の公試でさえ後進速力など測ることはありませんので、公式に実際に何ノットが出るのかなどの資料は無いと思います。 もちろん、各個艦で測った例があるかも知れませんが。 つまり、それなりの後進がかかりさえすればいいのであって、実際に何ノット出るのかなどはあまり意味を持たないかと。

    >1.
    >後進力量が38,000shpであるコトより、18〜20kt程度

     プロペラが前進用に最適化された固定ピッチであること、及び前進と後進では船体抵抗が異なることを考えると、同じ馬力でも後進の方が速力は出ません。 一般的には、例えば2軸艦の場合では、片舷前進半速と片舷後進原速で大体釣り合う程度と理解しています。

     上記速力は、この観点から割り出された数値なのでしょうか? 私は後進速力表が記載されたものを見たことがありませんので、何か資料がありましたらそれも含めてご教示をお願いします。
    艦船ファン

  3. >2.
    > 上記速力は、この観点から割り出された数値なのでしょうか? 

    ご指摘のように後進のほうが推進効率が悪化するので、山勘で同一出力で1〜3kt低速かなと思いましたケド、調べ直したら同一速力には前進の約2倍の出力を必要としてるコトより、>1.の金剛型の例を16〜18ktと訂正します

    後進力量は機関の方式によって異なり、レシプロ蒸気機関と電気推進は前進力量と同一です
    蒸気タービンでも後進タービンを用いずフェッティンガー継手を使えば前進力量と同一となります
    直結式と歯車減速式では、後進タービンはふつう前進低圧タービンと同一ケーシング内に収めますので、タービンの大型化を防ぐため後進段落を少なくして力量を制限します
    日本海軍では伊吹から伊勢型(原型)あたりまでが前進力量の50%、以後徐々に低下して妙高型27.7%、翔鶴型25%となります
    後進速力はあらかじめ規定されたものではなく、機関の都合による「出たとこ勝負」だと思いますケド、多くの場合前進巡航に近い速力を公試で発揮しているコトも事実です(川内21.86kt、古鷹21.19kt、妙高19.62ktなど、帝国海軍機関史による)
    駄レス国務長官

  4. >3.
    >帝国海軍機関史
     さすがは駄レス国務長官さん、ご教示感謝します。
    艦船ファン

  5.  ご回答ありがとうございます。

     緊急避難的に後進することもあるため、後進速度はそれなりに必要である。
     また、おおよそ前進時の巡航速度に近い速度を後進時に発揮できることが求められている(ようだ)と理解しました。

     後進用機関はこのように考えて設計される・・・というような資料を見たことが無かったので疑問に思っておりました。
    おうる

  6.  商船の場合、以下のようになっています。

    (1)常用出力(NORMAL OUTPUT):航海速力を得るために常用する出力で、機関の効率と保守とのうえから経済的な出力。80〜95%MCO、通常85%MCO、高速機関の場合は65〜75%MCO程度である。

    (2)連続最大(定格)出力(MAXIMUM CONTINUOUS OUTPUT、又はMAXIMUM CONTINUOUSRATING、略号はMCO又はMCR):機関が安全に連続使用できる最大の出力であって、これをもって機関の強度計算の基礎とする。

    (3)過負荷出力(OVER LOAD OUTPUT):連続最大出力をこえて短時間発揮できる出力。105〜110%MCO、通常110%MCO

    (4)後進出力(ASTERN OUTPUT):船の後進時における最大の出力。40〜60%MCO、通常40%MCO程度

     基本設計時の速力・馬力・曲線図で必ず手がけるはず(そうでないと運動性能が計測できない)ですが…
    RNR

  7. >6.
    > 基本設計時の速力・馬力・曲線図で必ず手がけるはず(そうでないと運動性能が計測できない)ですが…

    平賀アーカイブでも前進のばかりで後進のは見かけなかったですね・・・
    駄レス国務長官

  8. >3.
    >(川内21.86kt、古鷹21.19kt、妙高19.62ktなど、帝国海軍機関史による)
    単純な疑問ですが、この後進速力、どういう方法で計測したんでしょう。
    標柱間なら最低3回必要ですが、舵効き(保針)の悪い後進で?
    艦船ファン

  9. >8.
    シカとは判りかねますケド、標柱間ではなく、静止目標の横を後進で航過し、艦尾・艦首の2点(間隔を0.8Loaとか予め決めとく)の通過時間差でもって速力を算出するんじゃないでしょうか
    駄レス国務長官


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