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度々の質問となり恐縮ですが、とても気になる疑問が発生いたしましたので、宜しくお願いします。 二式単戦の設計について、wikipediaの項に、このようにあります。 『設計者の一人糸川英夫はブランコに乗る二人の子供を見て、縦と横の運動が互いに連動せずに切り離された操縦系をもつ機体(パイロットが縦の操作や横の操作を行った時、機体は余分な動きをせず、その操作のみに反応する。)を発想し、この構想から本機は水平尾翼のかなり後方に位置する特徴的な垂直尾翼をもち、機動から射撃の体勢に移ったときの安定性を高めている。このため射撃時の据わりがよく、機関銃・機関砲の命中率が高いと好評であった。この構造は後の四式戦にも受け継がれた。』 (1)これが、逆(垂直尾翼が前、水平尾翼が後ろ)にずれている場合であっても、縦と横の運動が切り離されるのでしょうか。 (2)二式単戦や疾風ほどに大きくずれているのは他にはなかなか見掛けないのですが、この設計が普及しなかった理由は、どのような事が考えられますでしょうか。 ご回答いただけましたら幸いです。 たーぼふぁん |
- こちらの過去ログがヒントになると思います。
http://ansqn.warbirds.jp/logs/A004/A0000230.html
超音速
- 糸川さんが述べる操縦論はさておくとして。
零戦の原型機では垂直尾翼と水平尾翼が前縁をそろえた位置についていました。
これは九六艦戦譲りです。
しかし、零戦の量産機では、垂直尾翼は水平尾翼とはずらしてより後ろについていますね。
これは錐揉み対策です。
超音速さんが示された過去ログと関係するとしたらこのあたりです。
片
- 上の過去ログで取り上げられている内藤さんの「A5M4、D3A2は最低限、A6A5は十分、Ki-84は満足という評価」はまさに垂直尾翼と水平尾翼の位置のずれ具合と一致しています。
片
- 水平尾翼のほうが前に出ているのはキ44・キ84のほかF8F・P-51・Fw190・タイフーン/テンペストとありますね。単発戦闘機に限ってもこれだけ見つかりました。双発以上に範囲を広げればもっとあると思います。
1.の過去ログで書かれた利点以外に考えてみました。
まず、動翼はモーメントアームが長いほうがいいんで、ラダー・エレベーターともに尾端近くに置きたい。
しかし、ふたつの動翼が重なる位置にあると、干渉を避けるためエレベーターを「く」の字型に切り欠かなければならない。
すると、切り欠いた部分に気流剥離が起き、抵抗となってしまうかもしれない。
尾翼位置をずらすことでこれを解決できるというのも考えられます。
前に出た方の水平尾翼はモーメントアームが短くなるが、それは面積を十分に取れば良い。
射撃時の安定性の件ですが、F4Uは逆に垂直尾翼のほうが前に出てますが、射撃安定性が悪いかというとそうでもない。
そのぶんラダー面積を思い切り大きく取ってあるからだと思います。
もしかしてこれも「縦と横の運動の切り離し」の思想なのかもしれませんね。
超音速
- キ四十四とキ八十四の胴体の基礎設計は思った以上に共通している部分が多いのですが、水平尾翼の相対的な位置はキ八十四の方が垂直尾翼寄りに移動してます。
キ四十四の空力設計は糸川英男さんですが、キ八十四の空力設計は16年に糸川さんから交代した近藤芳夫さんです。近藤技師はキ四十四の発展型としてのキ八十四を考えるにあたってある程度自分自身の考えを取り入れて変更していっているのですが、この水平尾翼の位置についてもそうであるようですね。
片
- 超音速さま
片さま
ご回答いただき、どうもありがとうございます。
・錐揉みの対策
・尾翼の干渉をさけるための切り欠きがないようにずらした
・F4Uのように逆にずれている場合でも、縦と横の切り離しの思想によるものかもしれない
まとめさせていただきますと、このようになるでしょうか。なるほどです。
4.で超音速さまに挙げていただきましたとおり、前後にずれている機は色々とありますが(キ94もありますね)、二式単戦や疾風ほどに大きくずれているのは他にはなかなか見掛けないのではないでしょうか。特に二式単戦はずれが大きいですよね。
5.で片さまのおっしゃるとおり、疾風では若干近づいてますね。キ87では、さらにもうちょっと近くでしょうか。
二式のずれの大きさは、特異なもののように思います。
縦と横の運動を切り離す効果を大きく出すためには、このくらい大きくずらす必要があったのだとすれば、このくらい大きくずらした尾翼が、普及してもよさそうなのになあと思えるのですが。
素人の私見としては、縦と横の運動が切り離されるというのは、かなり画期的な事のように思うえうる(もちろんデメリットもあるでしょうが)のですが、実際はそうでもないという事でしょうか。
たーぼふぁん
- すみません。タイプミスです。
×思うえうる
↓
○思える
たーぼふぁん
- たしかに、キ44鍾馗は群を抜いて水平尾翼が前にずれていますね。失礼しました
キ44の水平尾翼はモーメントアームが短い割に面積は広くないため縦安定が心配になるところですが、同機は主翼面積が小さいため風圧分布の前後幅も小さいので、あの水平尾翼でも十分な縦安定を得ることができたと思われます。
対してキ84疾風は主翼面積とアスペクト比がキ43隼とほぼ同じです。したがって適切な縦安定を得るため、水平尾翼の面積・モーメントアーム長さもキ43とほぼ同じです。一方垂直尾翼がキ43より後退したのは、機首が長くなった分、方向安定を確保する為です。
水平尾翼をこれより前進させると面積を広くしなければならず、抵抗増加となります。
超音速
- キ四十四とキ八十四の差は「群を抜いて」というほどではありませんよ。
この両機にはだいぶサイズ差があるように見えますが、各部の比率はけっこう揃っていて、相似形的に拡大してキ八十四を作っているのがわかります。
両者を同寸にしてみたとき、キ八十四の水平尾翼の後退量はせいぜい数センチ程度です。
大きな違いは胴体の絞り方と、何より翼面積なのですが、キ八十四の場合は水平尾翼の面積を拡大することで応じています。
片
- 「飛行日本」昭和19年2月号に鍾馗を語るという座談会記事が載っていて、設計者の内田誠太郎氏が、水平尾翼よりも垂直尾翼の方が後ろに出ているのは射撃時の安定性のためだという設計上の秘訣を開陳しています。その代わり旋回時にはスリップするとのコメントもあります。この辺が回答になるのかも。旋回性を重視する機体にはあまりずらさないほうがいいのでしょう。
泉水
- 超音速さま
片さま
泉水さま
なるほど合点いたしました。
皆様、詳しい解説をいただきまして、どうもありがとうございます。
たーぼふぁん