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次の画像を見てください。 http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org334653.bmp 飛行機の主翼の絵が出てくるはずです。 主翼内にカラフルな8本の縦線が引かれていますが、これは構造材を示すものではなく、 主翼を翼幅方向に等間隔に8等分したラインです。 最上段に描かれているのは、プラモデルの塗装図を元に描いたスピットファイアの主翼です。 作図の精度はともかく作図元の塗装図が完璧かどうかは知りません。 スピットファイアの左主翼のそれぞれの縦線の長さの30パーセント位置に印をつけてみたところ、完璧に横一直線に並んでいる事がわかりました。 スピットファイアの下にも、いろいろと翼が描かれていますよね。 実はこの翼はいずれもスピットファイアの楕円形を前後にずらしただけで、 8箇所の翼弦長は全て元と同じ長さになっています。 翼幅、アスペクト比、翼面積、先細り度合い、すべて同じになっています。 さて、ここで質問なのですが、 前縁後退角0としたバージョンでは、楕円翼譲りの誘導抵抗の少なさを引き継いだまま翼端失速を遅らせる効果が期待できるでしょうか? 以上よろしくお願いいたします。 みいつ |
- 楕円翼の失速は翼後縁から一様に始まるので、もともと翼端失速の傾向はないです。
超音速
- どういうことか説明したいと思います。
翼平面形は楕円翼のほか矩形翼・テーパー翼がある、テーパー翼は翼端から失速が始まり対処法は捻り下げ・前縁スラット・最大翼厚位置を翼端に行くほど前進させる等がある、といったことはご存知と思います。
楕円翼は既述のとおりで、矩形翼は翼根から失速します。
軽飛行機で矩形翼が多用されるのは安価にできるほか、翼根失速傾向のほうがエルロンの効きが残るのと、翼根から失速するとバフェットが胴体を叩いて失速の予兆をパイロットが知ることができるからです。
飛行機が大きくなると重量・強度の面でテーパー翼とせざるを得ないが、楕円翼はこれらの面でテーパー翼に近く、翼端渦による誘導抗力が小さく失速特性も良いため戦間期の一時期に流行しました。しかし工作性が悪いためと、テーパー翼でも色々工夫すれば欠点に対処できるため楕円翼の価値はなくなっていきました。P-47などは後縁のみ楕円になっていて名残があったりしますね。
これらもご存知でしたら失礼ですが、本題はここから。
失速は迎え角が大きくなると発生するものですが、進行方向と気流の方向は必ずしも一致していません。
揚力を発生している翼は吹き下ろしがあるため、翼へ流入する気流は若干下向きとなり、迎え角は進行方向よりマイナスになります。これを有効迎え角といいます。このため主翼は胴体中心線より若干プラス角度で取り付けするのが一般的です。
吹き下ろしの強さは翼端渦が関係して翼の各部分で変わるので有効迎え角も違ってきます。
翼端渦は矩形翼では翼端部分で強いので翼端に近いほうが有効迎え角が小さくなり、結果翼根失速傾向となる。テーパー翼では相対的に翼根部分で強いため翼端失速傾向、楕円翼は各部で一様の強さなので失速も一様に始まるということです。
超音速
- >矩形翼は翼根から失速します
超音速さん、それはちょっと一概には。
じゃま
- さらに長文を続けます
楕円翼は上記のように失速特性が良いとされますが、スピットファイアは失速特性が悪いと評されています。スピットは翼厚比を非常に薄くし最大厚位置も後方寄りです。これはおそらく翼後縁から失速が始まってから全体が失速するまでの間がなく、予兆もそこそこにすぐ失速するということと思います。
理論上、テーパー比0.4ぐらいがちょうど楕円翼と似たような失速特性となりますが、実際のテーパー翼は安定性確保のため弱後退翼としていることも多く、この場合は気流が外側に流れるアウトフロー現象があるので翼端失速傾向がより強くなります。キ43隼が前縁を直線的に、つまり空力平均線で弱前進翼としているのはアウトフローをなくすためで、これで2度ほどの捻り下げですんでいます(零戦は約4度)。
なお、テーパー比とは、デルタ翼がテーパー比ゼロ、矩形翼が同じく1で、テーパーがきついほど「テーパー比が小さい」という表現をします。
ついでに後退翼についても。
後退翼とデルタ翼の場合、翼端失速の原因は、アウトフロー現象のほうが原因として重くなってきます。後退角が大きいとアウトフローにより翼端部分ほど境界層が厚くなり、気流が剥がれやすくなるからです。後退翼は迎え角が大きくなると翼がねじれ、結果的に翼端が捻り下げとなるので、ねじれのないデルタ翼の方が翼端失速が早く起きます。これらの対処法は境界層板・前縁スラット・前縁フラップ・ドッグトゥース・ソーカット・コニカルカンバー等があります。
自分は専門家ではないので、うまく説明できたか自信ありません。
じゃまさん、間違っていればさらなるツッコミ歓迎します。
超音速
- >3.
プロペラ後流が翼根に当たっているからですね。
2.は原理的な話ということで勘弁してください。
超音速
- 今まで納得できなかった部分が一気に解決できました。
これほどまでの分かりやすく詳細な説明、本当に頭が下がる思いです。
自分の頭の中でいろんな現象を思い浮かべてはおりましたが、例えば後退翼でアウトフローが境界層を作り剥離を誘発するなどとは思いもよりませんでした。
みいつ
- 調子に乗ってさらに続けます
ご質問にあるように楕円翼を弱前進翼とすると翼根失速傾向となり、スピットファイアの失速特性改善の可能性があります。しかし工作性は悪いままで、主翼の剛性がもっと必要になり、安定性は低下すると予想されるため実用的でないということになります。
多連投してすいません。
超音速
- 程度問題ですが、スピットファイアの楕円翼を基準とするなら、弱前進翼なのが九六艦戦、弱後退翼なのが九九艦爆ですね。
片
- 翼の単位幅の揚力は、
ρuΓdy
ここで、ρは空気密度、uは対気速度、、Γは翼回りの循環、dyは翼幅の微小量、
だから、矩形翼の揚力はこれをゼロから翼端まで積分して、
∫ρuΓdy
それで、この循環Γが翼幅方向に一定ではなく、変化すると考えたのが、
プラントルの三次元翼理論だったわけです。
循環Γとはどのようなものか。
翼面では、空気流と翼面のせん断によって、空気流と90°をなす軸を中心とする渦が発生します。
空気粒子の回転する角速度は1/2|ω|です。
流れ場に微小閉曲線を仮定し、その閉曲線内に囲まれる渦線の合計が渦管vortex tubeです。
渦管の断面積をAとし、その微小部分dAを考えると、dA回りの循環の微小量dΓは、
dΓ=|ω|dA
ここでωは渦度であり、保存されるから、dΓを一定として無限に小さなdAをかんがえると、
一本の線としての渦管を扱うことができて、これは渦糸vortex filament、
すると、ΓはこれをAの全領域で面積分すればよく、
Γ=∫|ω|dA
これをストークスの定理で線積分に書きかえて、流速ベクトルをVとすれば
Γ=∫Vds
と書けて、翼をかこむ閉曲線で流速を線積分したのがΓだとわかります。
渦糸は、胴体を起点に左右の翼端に進んでいきます。
実際の渦糸は、ヘルムホルツの法則とは違って、翼端に進むに従い、弱くなっていきます。
だから、循環Γは翼幅方向Yの関数Γ(y)となり、点y0における循環Γ(y)は
ΔΓ=(y0-Δy)-Γ(y0+Δy)
このΔΓに対応した
ρuΔΓdy
が、点y0における翼の揚力です。
循環Γの減少が、翼の揚力に変換されているのですね。
これを翼幅全体に積分すると、揚力Lは
L=∫ρuΔΓdy
、
翼幅全体で、後縁からは循環Γの変化に対応する無数の渦糸が流れ出して渦面vortex sheetができる。
飛行機はこれによって揚力を得て飛んでいるといってよい。
渦糸が、どんどん翼後縁から流れ出すので、循環は翼端にいくほど小さくなり、
翼端でゼロ、だから揚力も翼端にいくほど小さくなり、翼端でゼロ、
そして、渦糸は、空気の流れを翼表面に引き付けておく働きもするので、
翼端で渦糸が小さくなると、空気がはがれやすくなる。
だから、矩形翼で、失速は翼端から生じやすい。
翼端失速すると、翼端上の圧力が高くなるから、翼端から翼根へ向かう流れが生まれて、
翼根上の圧力が高くなって、翼根で失速してしまうことがある。
超音速さんのいう、翼根失速は、この状態ではないでしょうか。
じゃま
- 凄い!じゃまさん。
でもレベルが高すぎて僕には全然わからないw
渦糸が主翼後方で翼端渦に巻き込まれるようにして一つの渦になる
(最終的に翼端渦の中に渦糸が巻いてる感じになる)という事はどこかで見た覚えがありますが、その程度です。
本やインターネット検索を総括して、矩形翼では失速は翼根から、テーパー比0.4の翼では翼の中央付近から、よりキツいテーパーでは翼端から生じるものだと思っていました。
みいつ
- ↑ 生じる というのは失速の事です。
みいつ
- 同じハインケルの高速機用楕円翼でも、初期のHe70や111、119では後退翼傾向にあり、中期のHe112はスピットファイアと同傾向、より後期のHe100、178、219、280では前進翼傾向というふうに移行しています。
それなりの効果の違いがあったわけですよね。
片
- 三角翼って、平面形だけで定義されるものではないですよね。F-15みたいなクリップト・デルタなら、同じアスペクト比でも、Fー18なんかより、向かい角・揚力曲線が、全く違いますが、理由はなんでしたっけ?空母で運用が困難な1番の理由だったような?
通りすがり