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皆様、明けましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。 2015年元旦の初質問です。 「歴史群像」に連載中で旧ソ連軍の女性パイロットの活躍を描いた劇画 「翼を持つ魔女」の中で、新型爆撃機Pe-2が導入され、転換訓練をした際 >同機は大馬力発動機のカウンタートルクで、離陸時に機体が左に横転する、 (連動して機首も左を向く)悪癖があり、非力な女性パイロットたちは、修正に 非常に苦労(二人がかりで操縦輪を引っ張っても修正しきれない)した< とあります。 しかし、同機よりも一回り小さく、発動機も同等〜4割程度強力な日本の双発機 (例えばキ45以降の各機)で同種のトラブルは聞いたことはありません。 (単発機ならプロペラ後流の影響も含めいろいろありますが) これは 1)尾翼面積の不足など、Pe-2に固有の問題であった。 2)腕力に勝る男性パイロットにとっては、「高速機の宿命」として甘受し、 制御可能な範囲だった。 3)漫画の演出上、多少の誇張があった。 のいずれでしょうか? 皆様から、ご教示いただければ幸いです。 2015.1.01.元旦 8:43記 MG151/20@謹賀新年 |
- Wikipedia英語版には、「Pe-2は離陸時の引き起こしに多大な腕力を必要とした(it took a good amount of force to pull the elevators up to rotate the plane for takeoff)」「夜間爆撃任務に従事した女性操縦士は腕力が足りないこともあり、航法士が後ろから一緒になって操縦輪を引くこともあった(some of the women were not strong enough to get the airplane airborne...navigator get behind the pilot's seat and wrap her arms around the control wheel)」とありますね。
ttp://en.wikipedia.org/wiki/Petlyakov_Pe-2
「カウンタートルクで横転」というのはよくある誤解だと思います。プロペラ機が機首上げ状態で滑走するとプロペラが流入気流に対して迎度を持つことになり、この結果回転面左右で推力差が発生し、(プロペラが後方から見て時計回りの場合)左へ機首を振ることになります。Pe-2は低翼のうえに吊り下げ式ナセル、しかも後部胴体が比較的短いうえ反り上げ式に絞っているためかなり三点姿勢が高く、この傾向が比較的強かったものと思われます。
これを修正するのは操縦輪=エルロンではなくペダル=ラダーになります。双発機では左右のスロットル開度を違えて補正する方法もあり、同様の機首偏向癖があった英国デ・ハビランド・モスキートでは使われていたようです。
無記名
- プロペラ回転が左右で逆、という手もありますね。
じゃま
- 無記名様、じゃま様
ご回答ありがとうございます。
基本的には、1)のPe-2の機体構造上の問題が主因と考えてよさそうですね。
>女性操縦士は腕力が足りないこともあり、
>航法士が後ろから一緒になって操縦輪を引くこともあった
「翼を持つ魔女(以下、同作と省略)」にもご指摘の画面があり、修正しきれず悲鳴を上げる姿が
描かれています。作者か補佐する編集者は、Wikipediaを読んでいたのかもしれません。
>「カウンタートルクで横転」というのはよくある誤解
>回転面左右で推力差が発生し、(中略)左へ機首を振ることになります
同作では正面からみて横転する姿の図解付きで描かれていましたが
>大型の双発機がカウンタートルク程度でロールするものか?
と不審に思い今回の拙問に到りましたが、ご解説いただき得心しました。
まず機首の首振り=ヨーありきで、ロールはその結果なのですね。
>Pe-2は低翼のうえに吊り下げ式ナセル、しかも後部胴体が比較的短い
>うえ反り上げ式に絞っているためかなり三点姿勢が高く
同作でPe-2のイラストを見て「双尾翼としても垂直尾翼が小さいな」と感じて
いましたが、ご指摘の点は気付きませんでした。ありがとうございます。
また三点姿勢が原因とすると、同様に三点姿勢が高い(9.5度)銀河でも同様の
問題が起きていたのでしょうか?
>同様の機首偏向癖があった英国デ・ハビランド・モスキート
これも私の知らなかったことでした。ありがとうございます。
>プロペラ回転が左右で逆、という手もありますね。(じゃま様)
我が一三試陸戦、P-38、確かMe110も、と一時左右のプロペラの逆転が流行しましたが、
操縦特性の改善(同一回転だとプロペラのカウンタートルクに逆らう側の旋回圏が大きく
なってしまうので、逆転にして均一化させる)のためだと理解していましたが、確かに
ご指摘の要素はありますね。
NG151/20@謹賀新年
- 作品は未見ですが、
1.で記述されている現象はPファクターといいますが、このほかプロペラ後流による影響があります。
プロペラ後流は螺旋状の気流となり右回転プロペラなら垂直尾翼の左側に気流が当たり、機首を左に振ります。このため垂直安定板を左に1〜1.5度くらいの角度で取り付けてあるなどしてあって巡航時にはラダー補正はいらないのですが、離陸時など低速時はラダー補正が要るわけです。
双発機で一枚尾翼の飛行機はこのようなことは無いのですが、Pe-2はH型尾翼でプロペラ後流の中に垂直尾翼が置かれるため単発機同様の上記のような現象があったと思われます。
また、質問者様はお気づきと思いますが横転に関しては、横滑りしたまま機体を浮かせてしまうと主翼の上反角効果によってロールするということですね。
超音速
- 超音速様、他皆様
ご回答ありがとうございます。
1月5日から仕事が再開し、即繁忙期に入ってしまい返答が遅れて申し訳ありません。
>Pe-2はH型尾翼でプロペラ後流の中に垂直尾翼が置かれるため
双垂直尾翼は、当時流行していましたが、私の認識では
1)方向舵をプロペラ後流やその近くに置けるので地上操行性が向上する。
(尾輪は荷重を殆ど負っていないので、ステアリング機構を付けても効果が乏しい)
2)後上方銃座の射界を広く取れる。
(単尾翼だと、真後ろに食い付かれると後上方銃座では対応できず、といって一式陸攻式の
胴体尾端の銃座は、重量、抵抗、戦闘時に射手を銃座に着かせることによるトリム変化への
対応が要るなど機体の負担が大きく、小型機では搭載できない)
3)原理はよくわかりませんが水平尾翼の両端に垂直尾翼があると、水平尾翼の効きが
良くなるので水平尾翼を小さくでき重量、抵抗両面で有利になる。
などの利点があって、爆撃機で多く採用されていました。
Pe-2の場合は、1)の長所が裏目に出たということでしょうか。
2014.1.11.17:55.記
NG151/20@遅筆御免
- >質問者様はお気づきと思いますが横転に関しては、横滑りしたまま機体を
>浮かせてしまうと主翼の上反角効果によってロールするということですね。
はい、存じていました。
フッドペダル=方向舵でロールができるということは、中学の頃講読した「航空用語事典」で
>ラダーによってもロールができる
で初めて知り、その後F4ファントムに関する記述を読んで詳細を知りました。
F4は、アドバースヨーの悪癖があるため、操縦桿を横に倒す通常の旋回操作では機首が
そっぽ(旋回方向と反対側)を向いてしまうので、まずペダルを踏んで機首を旋回方向に向け、
超音速様ご指摘の原理と併せてロールをさせ旋回します。
しかし、一般に人の足は手のようには俊敏には動かないので、F4の旋回始動は常に
一瞬遅れ気味になり、空戦時には不利になったといいます(当時の空軍機に比べ相対的な
低翼面荷重などの優位で補った)。
この「ロールは足で行う」と着陸時引き起こしをしない「ノンフレア着陸」※は、
F4の操縦性の二大特徴で、空自のパイロットたちが転換時に最も戸惑った点だったと
「航空ファン」誌上での証言などを読んで知っていました。
※ノンフレア着陸
元艦上機で降着装置が頑丈なF4は、着陸時に接地衝撃を和らげるための引き起こし
操作(フレア)が不要で、主脚をそのままドシンと滑走路に食い込まさせる
制御された墜落=ノンフレア着陸が可能でした。
そしてこのタイヤ(正確にはオレオ緩衝装置も)が、滑走路に食い込む摩擦抵抗で
着陸滑走距離を数百メートルも短縮できるので、F4パイロットには必修の技量とされ、
転換訓練時には元の機種の癖で引き起こそうとする操縦桿を、後席の教官が押さえつけて
感覚を覚えさせる訓練が行われたといいます。
板汚しの蛇足レスで失礼しました。
今年も1年よろしくお願いします。
NG151/20
- >5.3)原理はよくわかりませんが
原理は簡単。「翼端板効果」です。
いいことずくめのように書いておられますが、少なくとも抵抗は増えるのではありませんか?
超音速
- >3.
銀河は脚が長いですが後部胴体も長く、後部胴体下面もそれほど「反り上げ」ていないので、地上姿勢はそれほど高くないように見えます。それでも、一式陸攻の地上姿勢が低すぎ迎角が取れなくて離陸滑走距離が伸びた反省に基づき意図的に機首角を高めに設計したという話も伝わっているので、他の日本双発機に比べれば偏向癖が大きかったかも知れません。
(このへん、日本のいわゆる戦記物では具体的な飛行特性…例えば重心位置通常・正立時のスピンが何ノットで機首が落ち、どちらに傾いて何旋転で回復する、といった記述が少なく、「運動性が優れていた」とか「トルクが強烈で初心者には扱いかねた」といった抽象的な話が多いと感じます)
>5.
双垂直尾翼の利点は地上操向性もさることながら、片発停止時に直進維持しやすいところにもあります。双発機で片発が停止すれば当然ながら推力は左右不対称となり、機体は止まったエンジンの側へ機首を向けようとして滑ります。滑り量と迎角が過大になると片翼だけが先に失速し、機体は制御不能な旋転(スピン)に陥って墜落します。(1)で述べた回転面不均衡推力と片発停止が合わさると条件が悪化するため、普通の(串型配置でもなく、左右逆転や二重反転も使っていない)双発プロペラ機では「止まったら困るエンジン」が特定されます(日米式の「後ろから見て時計回り」プロペラでは、左が止まったほうが困ります)。
横操縦性を強化するためには後部胴体を伸ばしてテコの腕長を稼ぐ、垂直尾翼・方向舵面積を増加するといった手もありますが、いずれも重量や空気抵抗増大を招きます。双垂直尾翼では「まだ生きているエンジン」のプロペラ後流によるラダーの効き増大が期待できることから、片発飛行性能に対する要求が同じであれば空気抵抗・重量の減少が期待できます。
ただ(7)で書かれているように、同じ面積を細切れにして複数の翼面にすれば断面積は増加しますし、複雑になりがちな強度構造をどう処理するかによって重量の有利不利も違ってきますので、必ずしも1枚尾翼より双尾翼のほうが有利というわけでもありません。双垂直尾翼は1930年代〜40年代初期にかけて流行ったあと、次第により洗練された1枚尾翼にとって代わられた印象があります。
無記名
- 8.に補足。「止まったら困るエンジン」は航空用語で臨界発動機といいます。
双垂直尾翼は直ちに完全に取って代わられたというわけではなく、戦後の機体でも主に輸送機で2〜3枚尾翼が意外に多数あります(双ブーム式を含む)。片肺時の操縦安定性がよいという定評はなかなか根強かったのかもしれません。また、3車輪式は地上での全高が高くなるが、尾翼を2〜3枚式にすることで全高を抑えられ、格納庫の天井高さが低くてもよくなるという利点があったからです。まあそれらも1枚尾翼が信頼性を得ていったり、天井の高い格納庫が整備されていくことでやっぱり双尾翼は廃れていったわけですけど。
元の質問からは外れていってますが構わず書き込みしたことを御容赦ください。
超音速
- 超音速様、無記名様
ご回答ありがとうございます。
元旦に質問、1月中旬に回答、月末どころか今年は2月になっての再回答と
毎年の遅レス恐縮ですm(._.)m。
>元の質問からは外れていってますが構わず書き込みしたことを御容赦ください。
(超音速様)
どうかお気になされず、元々双垂直尾翼に言及したのは私からですし、
初見の知識を得られる喜びは何にも代えられませんので…。
2014.2.1.11:25.記
NG151/20@超多忙