732 第二次大戦期における、日本の一段三速過給機についての質問です。
昭和19-20年と敗色濃厚になり、やっとハ43-51型など、一段三速過給機にメドが立っていた、と思います。

日本で最初に、一段三速過給機の開発を手掛けたのは、どこの機関なのでしょう? そしていつ頃なのでしょうか?
三菱? 中島? 空技廠? 航研?

BMW802が一段三速過給を目指していましたが、この情報は日本にもたらされていたのでしょうか?

最後に、ハ43-51型は「運転試験」に合格したのでしょうか? したのでれば、いつ頃の話になるのでしょうか? 1段3速過給機の開発・研究が始まってから、何年後の話なのでしょうか?

1段2速過給機(栄21)の運転試験合格が昭和16年2月だったことを思い出すと、翌3月から、どこぞの機関が1段3速過給機の研究を始めていたとして、実用化まで4-5年もかかるような難儀な過給機だったのかどうか、が一番知りたい点です。

七試

  1. ハ43-51型は、1号発動機の完成が20年7月予定で終戦時には摺合運転中。性能計測を行う予定の2号機が未完成という状況です。

    一段二速過給器以降では、まずフルカン接手付二段過給器に進もうとしていた経緯があり、中島の誉も三菱のA18、A20もこの方向性を柱に据えています。
    その後、本来ならフルカン接手付二段過給器装備となるはずだった誉NK9Aが二段三速過給器付に変更されて完成したのが18年10月。
    同じく、三菱A20もフルカン接手付二段過給器から一段三速過給器付に開発の主軸を切り替えています。
    以上のような紆余曲折と時間の経過があった末にハ43-51型が出現していたわけです。


  2. 烈風の計画説明書の本文にその型式が登場するので三速過給器装着型のMK9Cは昭和17年6月頃には研究が始まっていることがわかります。
    BUN

  3. MK9Cは三菱の型番でも「A20C」であり、ハ211I・MK9AのA20A、ハ211II・MK9BのA20Bに続くものであるわけですから、構想はかなり早くからあったらしいことわかりますね。
    十七試局戦用MK9DのA20Dよりちょっと早いか同時期という印象です。


  4. 片さん、BUNさん、さっそくありがとうございました。
    海軍の公式文章の記載から、昭和17年6月頃に研究が始まっていることが示唆される、
    一段三速過給機は(紆余曲折のうえ)約3年経過して、「摺合運転」の段階に到達した、ということですね。

    この当時、三菱の開発リソーシスでは、同時に試作できるエンジン数は2、中島では1、と聞いています。
    そういった乏しい開発部隊を、「フルカン二段過給」や「ターボチャージャー」に張り付けたが、
    量産という果実をモノにできず、一段三速過給機も中途半端な段階で終戦となった、ということでしょうか?

    という点を踏まえ、海軍の技術開発行政に関わる関連質問です。
    リスクヘッジ、という観点を踏まえ、乏しい開発リソーシスという点も考慮して、
    例えば下記のように、それぞれの技術を、それぞれの会社に割り当てて、研究・量産開発に向かわせる、
    という仕切り方が出来なかった最大の障害は何、なのでしょうか?
    【例】 フルカン2段過給 → 中島、ターボチャージャー → 空技廠、1段3速過給 → 三菱

    爆撃機・性能標準を読むと、昭和15年あたりから中攻〜大攻の「主用高度」の上限が10000mに引き上げられ、
    高高度に対応可能な過給機の開発が求められていたかのように読み取れたこともあり、
    B-29対策云々の前から、この手の過給機の開発を本格化させるべき動機があった、ように思えるのです。

    七試

  5. 排気タービンの研究は昭和14年から始まっていますし、17年には実機への搭載実験が行われています。時期としては適当なんですね。
    そして、各社への開発の振り分けですが、当時の技術行政は空技廠を中心にして各社に新技術を水平展開させて行く体制が出来上がっています。たとえば三菱の金星の成果が中島の栄に導入されているように、です。この流れから外れた開発はあまり上手く進まない傾向にあります。
    BUN

  6.  一段三速は、ひとつの過給器翼車で高高度用の大圧力比を作り出さないといけないという点に高いハードルがあるんです。
     例えば普通に入手できる二倍程度の翼車を二段に繋げれば四倍の圧力比になりますが、一段で四倍のものを作るのは簡単な話ではありません(実際の圧力比はもう少し大きいと思いますが)
     高性能な翼車の開発そのものは継続されるべき課題ですが、高高度用過給器の開発という目標を考えると、各種二段が優先的に着手されるのは必然というか、大圧力比翼車の開発がネックになっていたのではないでしょうか。
    SUDO

  7. フィリピンで捕獲したB-17のターボチャージャーのコピーの大量生産ができない(マグネシウム合金の排気タービンを”消耗品”として量産することが当時の日本では無理)、と気が付いた昭和17年段階について、関連質問させてください。

    機械式2段過給は、スーパーチャージャーがエンジン出力の一部を使用して過給機を廻すという宿命上、その出力低下を嫌って、スーパーチャージャー+ターボチャージャーという組み合わせの2段過給への道を歩んでいた、と思います。

    そう考えると、2段過給の開発をそれでも強行するのは無理筋で、栄31甲や誉21で圧力比3倍超えに到達できたところから見て高度8000〜9000mで全開できて圧力比3倍前後の2〜3速過給機の開発に全力を注ぐ、という現実的な選択肢(過給機限定)は、海軍航空行政の内部ではどのように受け止められていたのでしょうか?

    追伸: ハ115-II搭載の隼は、10000mの高高度でも編隊飛行ができるぐらいの性能だった、という点を思い出すと、日本における高高度迎撃戦闘機の量産の可能性は、過給機以外に工夫を凝らす余地があったような気もします。
    七試

  8. 排気タービンの材料はマグネシウム合金ではないと思います。
    ニッケル系のはずです。
    そう書いてある資料があるのかもしれませんが、間違いです。
    マグネシウムで耐熱合金は無理です。
    日本で苦しまぎれに使った代用耐熱鋼ではマンガン系でした。

    機械式過給器と排気タービン過給器の組み合わせで2段過給というのもありえませんよ。
    排気タービンは単段で高い圧力比が出せるので、排気タービンを装架できるなら、機械式過給器を組み合わせる必要はないのです。
    両者の翼車は回転数がまったく違うのです。
    じゃま

  9. >8
     いやこの当時の飛行機用の場合は、回転数も翼車サイズも大同小異です。
     当時は単段で大きな圧力比を作れる翼車が無いんで二段なのであり、また高高度で運用するのに適してるので排気タービンにという流れなんです。単段排気タービンで賄えるようになるにはもうちょっと時代が進まないと無理だったんです。
    SUDO

  10. >9
    当時でも排気タービンの回転数はだんぜん高いですよ。
    インペラーの形がぜんぜん違います。

    機械式過給器はギアポンプの一種なので、そもそも排気タービンとは別種の流体機械なのです。

    勤め先に戦時中試作していた排気タービンが置いてあるのですが、こんにちのものとまずまず似通ったものです。

    >高高度で運用するのに適してるので排気タービンにという流れ

    これも広く流布している誤解ですね。
    排気タービンが高高度に特に適しているわけではありません。
    高い圧力比が出れば、機械式でも排気タービンでも、どちらでもいいのです。

    機械式多段過給は複雑すぎて手に負えないから、単段で高い圧力比が出る排気タービンに飛びついたのが日本です。
    その排気タービンの開発ハードルが、実ははるかに高くて挫折したので。
    じゃま

  11. >10
     当時の航空機用排気タービン過給器の回転数は2万〜4万rpmですが、気化器式過給器の増速比も10倍近くに達してますので、3万rpm近辺を使ってます。
     インペラ形状は同程度の圧力比の機械式でも国やメーカーによって色々なものがりますので、ある排気タービン式過給器のインペラが他機械式のものと形状が異なっていても、異なるのもが珍しくもないのが普通ですので何事かを説明するには適さないかと思われます。
     また機械式でも高い圧力比があれば十分であるというのは一面の事実であり、場合によっては排気タービン関連諸機材の重量スペース等が損失につながるという主張は英ロールスロイス社等から主張されていますが、逆にロールスの言い分を中島飛行機で追試した結論は逆で、効率面で排気タービンのほうが優れるというものでした。
     機械式でも大圧力比が得られるなら問題ないというのは必ずしも真ではありません。全開高度は稼げるかもしれないけど、その時の出力や燃料消費率は排気タービンで同等過給をした場合に劣るのです。高高度に上がれるかどうかではなく、高高度運用に適するかどうかで、排気タービンと機械式過給器は差が生じるわけで、この差をして「運用に適する」と当時の日本は書き記しているのです。
    SUDO

  12. >11
    どんな資料をごらんになっているのか、わかりませんが、3万rpmの機械式過給器とは、ちょっと信じがたいですなあ。
    実際に、どのエンジンに装架されていますか?
    何か間違いだと思います。

    機械式過給器の増速比が10倍というのも変だと思います。
    歯車式変速機でそれほど高い変速比の設計はムリだからです。
    摺動速度とヘルツ応力が高くなりすぎて、材料がもちません。

    歯車というのは、実際にはとても制約が多いデバイスで、常に任意の変速比をとれるわけではありません。
    実際に計算してみるとわかります。

    歯車の段数をめちゃ増やせばなんとかなりますが、ギアボックスがとんでもなくでかくなって、とても実用できるものではなくなってしまいます。

    >インペラ形状は同程度の圧力比の機械式でも国やメーカーによって色々なものがりますので、ある排気タービン式過給器のインペラが他機械式のものと形状が異なっていても、異なるのもが珍しくもないのが普通ですので

    文章がやや混乱していて論旨がよくわかりませんので、解説をお願いします。

    >効率面で排気タービンのほうが優れるというものでした。

    効率といってもいろいろありまして、何の効率でしょうか。
    分子と分母はなにですか?

    >その時の出力や燃料消費率は排気タービンで同等過給をした場合に劣る

    「同等過給」というのは、何が同等なのでしょう?
    排気タービンはエンジンのバックプレッシャーが大きくなるし、排気管の屈曲部が増えて、なおのこと圧力損失が増えます。

    排気タービンが有利というのは、よほどうまく設計ができれば、という条件つきの話なので、それなら機械式過給器でうまくやれば、という話とevenですよ。

    >高高度に上がれるかどうかではなく、高高度運用に適するかどうかで

    つまり、何が違うのでしょうね。
    このへんは、いくらでも官僚的に作文できてしまいます。

    ホントに排気タービンが良いのなら、みんなそちらにいってしまうはずです。
    実際のところ、排気タービンで成功したのは米陸軍機ぐらいで、イギリスもドイツも機械式多段過給で対応していたと思います。


    じゃま

  13. ハ112は回転数が最大で2600〜2700。過給器翼車の増速比は2速で9.2、

    ル2排気タービンの公称回転数は20000。

    排気タービンと機械式過給器を組み合わせて二段にする理由くらいは「どんな資料をごらんになって」も解ると思いますよ。

    またドイツの実用機で二段過給器装備機とは、どんなものがあるのでしょうか。
    BUN

  14. >機械式過給器と排気タービン過給器の組み合わせで2段過給というのもありえませんよ。

    とりあえずP-47の吸気系、排気タービンの後ろに何があるかご覧になっては
    Thunderbolt

  15. >13
    BUNさん:
    そうですか。
    すみませんでした。
    ユモ213E、Fとか、まあまあ、あると思います。
    実用機かと問われると、むずかしいですけど。

    >14
    Thunderboltさん:
    R-2800-21ですか?違うのでしょうか。
    じゃま

  16. >10
    >排気タービンが高高度に特に適しているわけではありません。
    >高い圧力比が出れば、機械式でも排気タービンでも、どちらでもいいのです。
    気体を圧縮する装置という観点からは、その通りだと思います。

    ご存知の通り、航空機用のエンジンでは、高度に応じて外気の圧力が変化します。航空機用エンジンの過給器には、軽量コンパクトで、高度に関係なく必要十分な吸気圧力を得ることが求められます。
    これは、結局のところ、低空における過給器のオーバースペックをいかに克服するかの問題だと思います。排気タービン過給器の場合、排ガスをバイパスさせて逃がせば、この問題を簡単にクリアできます。

    たとえば、ご存知の通り、「栄発動機十二型」は1速過給のエンジンです。公称高度4200m、公称吸気圧力+150ミリ、公称回転数2500です。このとき、キャブレターの絞弁が全開だとします。

    回転数が同一(定速プロペラ装備)で、高度が4200mより上がると外気圧が下がるので、吸気圧は+150ミリより下がります。馬力が下がります。

    逆に、高度が4200mより下がると、絞弁全開状態では、吸気圧が+150ミリより高くなります。(エンジン保護の観点から)吸気圧を+150ミリに保とうとすると絞弁を全開から絞らざるをえません。(自動で絞っています。パイロットが操縦席でスロットルレバーを下げなくても、気化器サイドで自動的に絞弁を絞っています。)

    つまり、高度4200m未満ではこの過給器は、オーバースペックということになります。オーバースペックの部分は、たんなるお荷物です。

    過給器仕様の最適化の手段として、高度に応じてコンプレッサー(インペラ)の回転数を変化させることが考えられます。その方策として、ご存知のとおり、
    ギアチェンジ方式
    トルコン方式
    排気タービン方式
    があります。

    排気タービンに入る排気ガスの圧力は高度による変化はありませんが、高度が上がると排気タービンの排気ガス出口での背圧は低下します。つまり、入り口と出口の圧力差でタービンが回りますので、排気タービン過給器では、高度の上昇はコンプレッサーの回転数を増加させる方向に作用します。これは、航空機用エンジンにとっては、メリットです。なによりも、排気ガスのバイパス弁で簡単にコンプレッサーの回転数を制御できます。排気ガスでタービンのインペラや軸受けが高温にさらされる問題を伴いますが。

    ちょん太

  17. >12
     効率は発動機の燃料消費率と出力での優位を言います。
     排気タービンは背圧損失がありますが、同時期の大抵の機械式過給器装備機は推力式排気管を使ってるので、似たような背圧損失があります(排気管を絞ってるので)
     結局は発動機出力の10〜20%を食う過給器駆動馬力をエンジン本体から取らずに済む分だけ排気タービン式が優位になるわけです。そして、この過給器駆動馬力は大圧力比つまり高高度に行けば行くほど大きくなるのです。
     もちろん作りが悪ければ、理屈的に劣る機械式に負けるようなものになる可能性はありますが、どっちかというと「よっぽど上手く作った機械式は排気タービン式に対抗できる」というレベルではないでしょうか。
     また排気タービンが良いものであるから、船舶や車両を含めて殆どのレシプロ内燃機関の過給器は排気タービンになっているのが現代でしょう。
    SUDO

  18. 赤っ恥かいたあとなので、たいへんやりにくいですが身からでた錆び。

    >16 ちょん太さん:よく整理してくださいました。
    排気のバイパス弁はかなりつらいと思いますが。
    >17
    SUDOさん:
    コメントありがとうございます。
    燃料消費率と出力はおっしゃるとおりだと思います。
    しかし推力式排気管の絞り損失は非常にちいさいです。
    管面積が縮小するときの流量係数cは0.98くらいで、そのときの損失係数ηは
    1/c^2-1で、つまりほとんど損失が無いからです。
    洗車のとき、ホースの出口をつまんで押さえると、水が遠くまで飛びますね。

    でも排気管のベンド損失はたいへん大きい。
    飛行機の排気タービンは狭い中にぐちゃぐちゃ排気管を押し込むからベンドがたくさんできてしまいます。

    機械式過給器との得失ですが、耐熱鋼や潤滑の技術が発達した現代なら排気タービンが有利でしょうが、1930-1940年代では、どんなものでしょうか。
    高価なニッケルやクロームをふんだんに使えた米国ならともかくですが。

    分野が違いますが、戦車のエンジンでも似たようなことを感じます。
    現代なら燃費の優位でディーゼルが断然有利でしょうが、WW2当時なら、やたら重くて馬力が出ないディーゼルより、ガソリンエンジンを選ぶ方がマシだったかも。
    時代によっていちばん良い技術はちがってくるように思います。
    じゃま

  19. >18
     であるから、優れた機械式二段過給器を持つロールスロイス社は利害得失的に排気タービン要らないんじゃねと主張し、そこまで機械式過給器の効率や推力排気管に夢を持たなかった中島では逆の結論が出てるわけです。
     また戦車のエンジンでガソリンのほうが軽量高出力だった事例は航空機用をそのまま転用した場合ぐらいで(それでもディーゼルのほうが軽い場合すらありますが)大抵の戦車用エンジンは軽量化の優先順位が低いのか馬鹿みたいに重たいものでして、重くて馬力の出ないディーゼルという事例はどちらかというと例外的ではないでしょうか。
    SUDO

  20. >>機械式過給器と排気タービン過給器の組み合わせで2段過給というのもありえませんよ。

    P-38もP-47もエンジン本体に機械式過給器がついていて、排気タービンもついてますよね。
    KZ

  21. >R-2800-21ですか?違うのでしょうか。

    あるいは-59Wなり-63なり、排気タービンから折り返した吸気管がエンジンに達した部分です。
    機械式スーパーチャージャではないのですか?
    Thunderbolt

  22. >ユモ213E、Fとか、まあまあ、あると思います。
    >実用機かと問われると、むずかしいですけど。

    3rd gearに入れることを禁止されているエンジンです。1段2速で運用してます。
    他にDB605Lは実際間に合ってません。
    wittmann


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