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十四試局戦の直結式強制冷却ファンの周速は飛行速度(公称出力時)に対して著しく低いと思うのですが設計上の冷却能力は十分考慮されていたのでしょうか。 十四試局戦(J2M1) 発動機 火星13型 最高速度 574km/h 発動機回転数 2,350rpm 減速比(プロペラ) 0.684 増速比(冷却ファン) 1.000 プロペラ先端部の周速 269m/sec(969km/h) ⇒冷却ファン先端部の周速 62m/sec(227km/h) 雷電11型(J2M2) 発動機 火星23型甲 最高速度 596km/h 発動機回転数 2,500rpm 減速比(プロペラ) 0.500 増速比(冷却ファン) 3.180 プロペラ先端部の周速 216m/sec(777km/h) 冷却ファン先端部の周速 156m/sec(562km/h) すぱいだ〜 |
- 強制空冷ファンは「最高速度」は無視して考えて結構です。
普通の飛行機でも最高速度時は、カウルフラップを閉じてても十分間に合うわけですから。
強制空冷の目的は、離陸・上昇・空戦時の大出力でありながら飛行速度が低い条件に於いて、抵抗を増加させるカウルフラップを開かなくても良いというところにあるのです。
そして強制空冷で難しいのは、出口側とのバランスです。
J2M1とJ2M2は冷却気の出口も異なるわけで、入り口側の加圧の差だけではなく、出口側の排出し易さも違っています。
恐らくJ2M1は前から押し込むのが弱く、更に排出側も詰まり気味で、冷却気の流量が十分ではなかったのではないかと想像します。
SUDO
- SUDO様
早速の回答ありがとうございます。
直結式強制冷却ファンを廃して吸気孔を広げ、排出側を通常のカウルフラップにすればエンジンを載換えずに、もう少しましな戦闘機(十四試局戦のままで)になったのでは、などと考えを膨らましてしまいました。
すぱいだ〜
- >2
その場合は、機首整形の問題から最高速度が遅く、また機首とカウルフラップの抵抗から上昇力等に問題を抱えた機体になります。つまり14試局戦より全般的に劣った機材になるでしょう(少なくとも開発時にはそのような想定だったでしょう)
14試局地戦闘機や雷電は、気化器空気取り入れ口を見直しすほうが、空力設計や強制空冷ファン関係より先ではないかと、個人的には考えますけど。
SUDO
- 強制冷却ファンは、(機首の流線型化は別にして)単体としては、エンジンの出力を消費し最高速度を低下させる方向に作用します。
XPー42を用いたNACAの飛行試験(NACA ReportNoー771)では強制冷却ファンの装着によって、最高速度は1.5%低下、出力にして5%程度のロスを発生しているようです。
同じく強制冷却ファンを採用しているFWー190Aの場合、ファンの増速比は約1.85となっているので、雷電の試作機は少し送風量の見積りが控えめなようです。
雷電は胴体の紡錘体化のために、強制冷却ファン、延長軸による重量増、ファン駆動のための出力ロスなど結構大変な目にあっているように思えます。
い
- >3
14試局戦より劣った機材では意味がありませんね。
>4
火星10系を搭載した一般的な局戦であれば、17年後半には量産されていたのでは・・・と思うのですが、紡錘形の雷電は嫌いじゃないです。
すぱいだ〜
- J2M1第一次性能計算書での性能推算値が最大速度317.8節ですから、そこからさらに低速なものを目指すとなると、どんどん零戦との差が無くなっていってしまうような気がしますね。
片
- それから、強制冷却ファンはすなわち軸流型圧縮機ですから、あまり高圧縮にすると今度は断熱効果で温度が上がってゆきます。適当な範囲というものがあるはずです。
片
- >7.
強制冷却ファンで押し込んでいる圧力(ファンなしの場合との差)として、動圧(1/2×空気密度x速度の2乗)の15%程度(NACAの試験機の設定)ですので、レシプロの戦闘機の上昇速度を毎秒100m程度とすると1ー2℃程度の温度上昇になると思います。
空冷エンジンのシリンダーヘッドと冷却空気の温度差を200℃程度とすると誤差の範囲という気もします。
い
- >7&8
Fw190を参考にした日本での想定は、飛行動圧の1.5倍から2倍以上に相当するものです(それは十分に果たせなかったとは思いますが)
冷却的には圧縮は強ければ強いほど良いのですが、いさんが紹介されたNACAの例のように、圧縮機が食う馬力というか、軸流ファンの推進効率がプロペラよりも劣るので、ファンを設けることで得られる空力改善(機首成形とカウルフラップ抵抗)と、ファンによる推力低下とのバランスを、どこで妥協するかということになります。
SUDO
- >9
試験条件を補足すると、エンジン前の圧力を比較しているのは指示速度140mph(224km/h)の状態です。
雷電のカウリング開口面積で飛行動圧の2倍で空気をいれるとかなり流量が多くなりますが、火星の冷却仕様は大量の空気を高速で通過させるという考えだったのでしょうか。
NACAのハイスピードカウリング(おちょぼ口)の設計仕様をみると飛行速度の0.5倍で冷却空気を吸い込みとなっています。同じくロースピードカウリングでは飛行速度の0.3倍で吸い込みとなっています。
カウリング、ファン形式と最高速度の比較表を画像掲示板に載せておきました。
い
- >10
ああ、計算間違えたかな。
航空発動機によると、日本で欲しいとされてた圧力差は300〜400mmH2Oだそうで。
100m/sでの動圧は地上高度で1/16*100*100で625kg/m^2(でいいんだよね?)
400mmH2Oは約400kg/m^2。よって地上高度の動圧の0.6倍程度・・・かな?
ちなみに、某空冷星型14気筒1400BHPで、放熱性能は200kcal/h/BHP(液冷で250〜300、9気筒空冷で250ぐらいとされてますから、放熱性能はかなり悪いです)冷却空気流量は23kg/secとされてます。
SUDO
- >10
動圧の推定はあっていると思います。
動圧の50%ー60%程度は強制冷却ファンを使わなくとも通常の高速吸い込み型のカウリングで確保できるようなので、ファンの寄与分はNACAの試験と同様に動圧の10から20%程度ではないでしょうか。
当方の資料では、Rー2800を1600Hpで運転した際の冷却空気量が20Kg/sec前後になっていますので、冷却空気の要求量も同じレベルのようです。
ファンの駆動損失を差し引けば最高速があまり伸びないところをみると強制冷ファンというのは、三菱さんあるいは航空技術廠が幻を見ていたように思えます。(70年後の後知恵ですが。)
い
- >12
まあ、重要なのは地上高度ではないわけですから、例えば3000〜6000mだと、動圧はだいぶ減るわけで、そのときも400mmH2O乗せるとなると、果たしてどうなのかという事でしょうし、航空発動機(昭和18年刊)には、カウルフラップの損失が無視できない上昇時等を狙うならば意味があるのではないかという趣旨で記されています。
雷電は上昇力に関しては立派なものですから、ファンの恩恵はそっちで得ていたとも考えられるのでは?
SUDO
- >13
最速上昇のプロシージャとしては、計器指示速度一定すなわち動圧一定が指定されるようですので、速度による動圧としては一定だと思います。ただし、流入速度は高度が上がるに従って増大しますので、ファン翼の速度三角形(ファン周速度と流入速度の比)がどの辺で最適になるよう設計していたか気になるところではあります。
雷電は日本の戦闘機の中で、馬力荷重、翼面荷重からすると非常に上昇率が高いので、低速域で何らかの空力あるいは推進面での成功をおさめていたのだと思います。
ただし、後知恵でみれば高い上昇率を得るために、延長軸、強制冷却ファン、紡錘型胴体のセットの他に延長軸と冷却ファンのない軽い、細い機体、あるいは、短いカウルと冷却ファンの組み合わせなど他の選択肢もあったのではないかと思ってしまいます。
い
- >14
紡錘胴体は最適解から外れていたというのは、まさしく後から言える話ですし、本当に紡錘胴体が悪くて速度が出なかったのかとなると、私はちょっと疑問に思ってます。
なんで火星の全開高度が途中で下に修正されるのか(そしてなぜか同系の陸攻では大丈夫)同じように全開高度が下に修正されたキ67、そして色々いじることで最高速度が変わった烈風試作機での事例を考えると、エンジンのカウル内吸気が失敗だっただけじゃなかろうかと。
たったの4100mでブーストが垂れてしまう火星23甲、本来5500mで全開のはずですから、4100mでは公称1520馬力に満たない可能性も高く、雷電21型の最高速度596km/h@5450mの高度では1200〜1300馬力ぐらいしか出てない状態でその速度だったということになります。
それで600km/h弱を出しているなら、そんなに空力は失敗してないのでは?
SUDO
- 冷却問題の奥深さを痛感しております。
大変恐縮ですが追加で質問させて下さい。
>9 極端な例かもしれませんが震電は機体最後尾から強制冷却ファンで冷却気を排出していますので圧縮とは逆の働きをしているようにも思えます。
震電の強制冷却ファンは機能的には別物のなのでしょうか。
>10 カフスにもかなりの強制冷却の効果があるようですが日本の航空機での応用例があまり思い当たりません。これは効果が知られていなかったのでしょうか。それとも冷却があまり問題になっていなかったのでしょうか。
>11 あと瑣末なことではございますが**H2Oは**Hgかと・・・
すぱいだ〜
- >16
mmH2Oはミリメ−トル・アクアで水銀ではなく水柱長でmmAqとも書く圧力単位の一種です。
http://www.ryutai.co.jp/shiryou/atsu/pkansan-01.htm
またファンの前にエンジンがある場合とファンの後ろにエンジンがある場合で艤装面では当然異なる観点が必要ですが、理論式は簡易計算なら同じもので構わないとされています。
つまり震電も雷電と同じく強制吸い込みなのです。吸い込み口の前にエンジンが立ちふさがってるというだけのことです。そう規定することでファンを通過する空気量の計算が行われるわけです。雷電との違いはファンの前後の抵抗の違いであり、それを計上すれば良いだけのことになります。
SUDO
- > mmH2O
これはしたり、とんだ失礼を・・・
しかも換算がぜんぜん違う!
すぱいだ〜
- >10
NACAのカフス付きプロペラの冷却試験は1940年ころだと思います。
1939年のflight誌に「Cuffs」というキャプションのあるプロペラの写真が載っているので秘密というわけではないように思います。
>14
カウルフラップを拡げないで抵抗の少ない上昇するのも美しい姿ですが、延長軸のないスリムな軽い機体も上昇力の確保の解の一つです。
「飛行機設計論」という本に旧海軍機の上昇率と馬力荷重というグラフがありまして、雷電試作機(J2M1)は、一速で馬力荷重2.04Kg/Hp,上昇率1100m/sとなっています。重量2861kg,出力1400Hp,プロペラ効率75%とすると、出力の65%が重力の逆らって機体を持ち上げることに、残りの35%が空気抵抗に打ち勝って機体を前進させるのに費やされることになります。空気抵抗のうち、半分くらいは揚力の発生に伴う誘導抵抗なのでカウルフラップを含めた胴体の流線型化の寄与はあまり大きくありません。
重量が5%軽減できれば、機体の抵抗係数は20%、胴体の抵抗は40%程度増大しても上昇率は変わらないことになります。
ちなみに、同じグラフにA5M4(九十六艦戦4号)2.1Kg/Hp,1000m/sというデータもプロットされています。大きな上昇率を得るだけなら軽い機体に(相対的に)大きなエンジン、大きな翼ということでしょうか。
重量軽減は上昇率確保の王道だと思います
い
- >19
延長軸で絞った機首は最高速度狙いの紡錘胴体との兼ね合いでもあり、雷電は上昇力だけを狙った機体ではなく、速度と上昇力の双方を求められた機体です。
火星エンジンの延長軸関連分の重量は約100kg。雷電の全備重量は約3500kgですから、延長軸をやめても3%しか変わらないので、胴体の再設計等を含めても5%変わるかどうかですし、それで上昇性能が「変わらない」としても、最高速度は低下してしまうでしょう(少なくとも当初の見積もりでは)
SUDO
- 質問ばかりで申し訳ありません。
>19
雷電のカウルフラップはどのような時に使用されるのでしょう。
>19,20
強制冷却ファンを除き、カフスと推力式単排気管による誘導排気というのは如何でしょう。
すぱいだ〜
- >19 訂正です。
上昇率の単位は、m/minです。失礼いたしました。
>20
最高速度が設計時の見積り通り、延長軸の採用で有意な利得があったのかというのが、後知恵評論のターゲットです。
紡錘胴体+延長軸+強制冷却ファンという組み合わせにお仲間がいないので後の世の議論を呼ぶのだと思います。
>(少なくとも当初の見積りでは)
このあたりの海軍航空技術廠の基礎資料がどの程度の規模の風洞試験に基づくものか気になります。同時代のNACAの風洞試験の資料では抵抗計測に抵抗発散マッハ数の記述がありますが,,,,
い
- >22
紡錘がプラスになってるかどうか微妙ではあっても失敗と断定できるものでもないかと。もちろん有意な利得があったと主張するつもりは全くありませんが、後知恵で「ああすればよかった」と言えるほどの有意な利得を得る手段もないのでは?
また程度の差こそあれど、空冷単発機で胴体の最太部分が雷電と同様の場所にあるものは、日本海軍機以外でもグラマンやセバスキー/リパブリック等にも共通しています。つまり間違いというほどのものではないでしょう。
>21
カフスは「凄く弱いファン」なんです。この少ししかない圧力と、十分な排出性能が保証できるといいがたい誘導排気の組み合わせでバランスを取るのは難しいでしょう。
想像ですが、上昇性能を確保すると史実のカフス付き空冷機以上の開口部を設け、機首部の空力整形は絶望的になるかもしれません(いうならばNACAカウル初期やタウネンドリングのようなものですから)
もしくはコンベンショナルなサイズと形態の開口部ですと、エンジンに十分な動圧を与えるために上昇時の指定速度はかなり高めの速度になるでしょう(例えばシーフューリーがそうであるように)この場合、上昇に回せる出力余裕が限られてきますので上昇性能が稼ぎがたくなる懸念が生じます。翼面荷重等が大きく、どうせ低速では浮いてるだけで精一杯というような機体ならば、これは全く問題にはなりませんが、馬力や離着陸性能の条件等に余裕が無いと選択しがたいかと思われます。
SUDO
- >22
シーフェリーの最適上昇速度が見当たらないので、同様のカウリング構成のテンペスト2のマニュアルをみると最適上昇速度は190MPH、液冷エンジンを積んでほぼ同じ馬力と重量のテンペスト5では最適上昇速度は185MPHとあまり変わりませんが。
シーフェリーの指定上昇速度はそんなにおおきいのでしょうか。
い
- >24
時速300kmは相当速いんですけど。
SUDO
- >24
米海軍のテストでは、
FW-190 160Knot 296Km/h
F4U-1 135Knot 250Km/h
スピットファイアのマニュアルからは
Mk2 160mph 257km/h Mk12 190Mph 306Km/h
英空軍のレポートでは
P-47C 165mph 265Km/h
翼面荷重相応に最適上昇速度があがっているように思えます。
テンペスト2はロングノーズカウルに風を当てるために最適速度を空力的な最適値より高速側に設定しているのでしょうか。
い
- >26
23で記したように、翼面荷重が大きいなら、風を当てるのに苦労が要らなくなるのです。
雷電のような非力で翼面荷重も大きい機体の場合でも、シーフューリー程度に速くないと冷却が出来なくなるでしょうと述べたのですが、何か疑問でもありましたか?
SUDO
- ×「雷電のような非力で翼面荷重も大きい機体」
○「雷電のような非力で翼面荷重も小さい機体」
でした。すいません。
SUDO
- >27,28
了解です。巷で読める航空機本に出ている記述からは、雷電は翼面荷重が大きくて大変という印象を受けるのですが、数値にすると特に翼面荷重が大きいわけでもないように思っておりました。上昇率の確保のために翼面積を大きくとり速度性能との両立に苦労している「非力で翼面荷重も小さい機体」だと思います。
余談ですが、F−4U,F-6Fのマニュアルでは、「指定上昇速度でカウルフラップは半開を指定、エンジン温度が制限を超える場合はカウルフラップを更に開く前に速度を10ノット/時あげてみること」と記されています。カウルフラップを開いて更に低速の抵抗の大きい、冷却系の差圧の小さい状態に落ち込むことにくらべれば合理的な方法だと思います。
い
- 皆さま、回答ありがとうございます。
とても参考になりました。
すぱいだ〜