122 |
ホーカー・フューリーのプロペラ径についてお伺いします。 佐貫亦男「続・飛べヒコーキ(文庫版ではp.71〜)」に 「フューリの形態を見てすぐわかることは、脚の長さである。この長い脚はまた長いプロペラのためで、その直径は約三メートルある。これはエンジンのロールスロイス・ケストレルIIS五二五馬力が減速しているためにちがいない。この程度の馬力で三メートルのプロペラは長い。高速戦闘機のプロペラはどちらかというと短いほうが有利で、軽爆のハートと同じエンジンを使ったフューリの最大速度がもう一歩伸びなかった理由はこの辺にあろう」とあります。 数値を探ってみますと、 フューリーI ケストレルIIS 525HP 207mph フューリーII ケストレルIV 640HP(690HP?)(マッシュルーム社Fury&Nimrodによる。馬力はウィキペディア英語版のFuryから。On Silver Wing によるとケストレルVI、696HP) 228mph (燃料タンク増設時223mph) 減速比はフライト誌アーカイブ http://www.flightglobal.com/pdfarchive/view/1937/1937%20-%201712.html によるとこのあたりの型番で共通で、0.632/0.533/0.477です。ただし、ハート/フューリーでどれが使われているのかはわかりません。 プロペラ径は断片的に記述しか見つけられずにおりますが、 Hawker Fury 10 ft. 6 in Hawker Hind/Demon 10 ft.10 in (ちなみにグラジエーターMk I でも10 ft 9 in あります) といった数字が拾えました。 Q1 ハートとフューリーの減速比はいくつだったのでしょうか? ハート0.477、フューリー0.533でよいのでしょうか? フューリーの減速比が0.477または0.533だった場合、もしこれを0.632にしてプロペラを小さくしたら、それ自体の効果としてどの程度の増速が見込めたものでしょうか。また脚の短縮も合わせるとどんな感じになりましょうか? その場合、プロペラ径はどの程度に落ち着いたものでしょうか? Q2 当時、こうした検討はなされなかったのでしょうか?(マッシュルームのHart Familiy と Fury&Nimrod、On Silver Wings では、エンジン換装や支柱の洗練、後退角つき上翼のテストなど出てきますが、減速比とペラ径についての記述がありません)。 それは、戦間期の予算不足・危機感不足・生産数の小なるに由来し、もしも状況がよりシビアであれば、減速比とプロペラの洗練が検討されたと考えてよいものでしょうか? はたの |
- ケストレルの出力特性から、低空低速と高空高速で必要な吸収馬力差が大きいという問題が、プロペラ性能の選択に影響を与えてるのではないでしょうか。
固定ピッチだと、これは避けがたいものでもありますが、あの全開高度と出力では、他に選択肢は無いんじゃないかなと個人的には考えます。
SUDO
- ありがとうございます。
「ケストレルの出力特性」についてもう少し詳細にご教示いただけないでしょうか? ハートの初期型は無加給、ハート後半各機種は加給されており、出力特性も異なると思われますが、なのに、プロペラはたぶん変更されていないようでもあります。加給の有無に関わらない出力特性というのがうまく理解できずにおります。
各ステージごとのパワーについてはケストレルXXX型しか手元にないのですが、
Take-off Power:715 b.h.p. at 2,750r.p.m.
International Rating: 535/550 b.h.p. at 2,400 r.p.m. at 11,750 ft.
Maximum Rating: 600 b.h.p. at 2,750 r.p.m. at 14,500 ft
とありますが・・・
On Silver Wings にはMax Power しか記載がありませんが、
IISで550hp, 2700rpm +1.75 boost at 11,500ft
VIで 696hp, 2900rpm +1.5 boost at 11,000ft となっています。
あるいは全開高度の高さがプロペラ選択上の難点なのでしょうか?
はたの
- >全開高度の高さがプロペラ選択上の難点なのでしょうか?
そうです。
過給してないなら良いんですが、過給エンジンでは低空ほど馬力が低く、吸収馬力は大気密度に比例しますから、高空高出力に合わせたプロペラは、低空ではプロペラが過剰になっちゃうのです。
この高度変化分を、大気密度の変化に伴う速度変化分だけ少しでも吸収しようとしたらプロペラを大径にするしかないですし、また大径のほうが適切から外れたピッチ条件での吸収馬力が小さめ、言い換えれば推進効率が狙えますから、離昇上昇格闘等を考えた場合、大きく遅いプロペラを選択するのは、実用機としては極当然の思想であろうと思われます。
SUDO
- ありがとうございます。
ペラ径は「実用機として極当然」と伺うとそんなものかとも思うのですが、すると以下が不思議になります。何かヒントなどいただければ幸甚です。
a プロペラ技術者である佐貫氏がこうした所感を記されたのはなぜなのか。全体の調和が気に入らないほうが先に立ち、ペラ径部分は筆が滑りでもしたのか。
b 無過給525馬力のIB搭載の初期ハートとfully supercharged 640馬力のV搭載のハインドとで、同じプロペラで良かったのか?
c 減速比0.632のケストレルはどんなプロペラと組み合わせてどんな機体に使われ(る予定だっ)たのか?
単発戦闘機が0.65前後、多発機が0.5前後というのなら納得なのですが、単発戦闘機で0.5前後とすると(マーリンも減速比0.477のようですし)、0.65前後の用途が思い浮かびません。それともフューリーは0.632ギアで10ft 6inペラを回していたのでしょうか?
はたの
- A;高速だけを狙うなら小径は当然ですから、速度がそんなに伸びないのは大きなペラによる重量と足の抵抗がネックだろうというのは、全くそのとおりのことです。佐貫先生は何も間違ったことは仰ってません。
B:同じプロペラなのかどうか判りません。径が同じであっても、減速比やピッチは違うかもしれませんよ?
C;これも、減速比だけの話ではありません。ピッチ選択でも色々と選べます。プロペラは径とピッチと気流の速度の三者で決まるのですから、3つの組み合わせ方次第ですし、気流の速度はペラの周速のみならず飛行速度も関わるのですから、どの減速比でも、大型機でも小型機でもやろうと思えばやれるんです。
SUDO
- 何度もご回答くださりありがとうございます。食い下がって申し訳ありませんが、もう少しだけおつきあい下さると幸いです。
A 私には、佐貫氏の所感は、「525馬力なのだからもう少し短いペラと脚にしておけば(史実よりは多少落ちるとしても、必要な実用性は確保した上で)もう少しスピードが出ただろうに」と読めまして・・・
繰り返しになってしまいますが、「速度は有意に向上し、実用性は悪化するがその程度は許容範囲内に留まる」という「史実とは別の、よい妥協点」はないものなのでしょうか?
B エンジン特性の差からして同じプロペラでは少し無理がありそうだ、と感じてもよいものでしょうか?
C どういう組み合わせ、やり方なのかを知りたいわけでして、計画や実例などご教示いただければ幸いです。
はたの
- A:そりゃ妥協点をどこに置くかですから、別のバランスは当然選べると思います。当の英国とホーカー社がその「別のバランス点」を選ばなかった以上、彼らにとってのベターであったのかどうかは疑問ですが、佐貫先生や中島飛行機もしくは日本軍ならば、別の選択と判断をしたとしても、それはそれであり得る話でしょう。
B:無理かどうかはわかりませんが、同じプロペラを用いた場合に美味しいポイントになる条件は当然違ってくるでしょうね。
C:プロペラの吸収馬力は、大気密度x回転数の三乗x径の五乗xパワー係数(おおむねピッチというか迎え角です)に比例します。
つまり、大戦機を見てください。同等出力であっても、径も回転数も色々ですが、恒速ペラならどれでも吸収馬力とエンジン出力はつりあってます。つまりピッチが変われば、径や回転数が色々でも吸収できるのです。であるからピッチと径と回転数の3つ、さらには大気密度等が揃わないと、そのペラの各条件における吸収馬力はわからないし、効率もわからないのです。一つや二つの数値だけで何事かを語るのは難しいというか無理なのです。
SUDO
- 長くおつきあい下さり、本当にありがとうございました。
はたの