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第二次大戦期のレシプロ戦闘機について質問させてください。 飽く迄スペック上の話なのですが。 日本軍の三式戦闘機が他国の液冷エンジン戦闘機に比べ低速で、上昇力や加速性能も劣ると評されるのは何故でしょうか。 冷却用の空気取り入れ口やラジエータの配置などによって空気抵抗がぞうかしたからでしょうか。 また、最優秀と評されるP−51ですが、最高速度と高高度性能のほかにどのような点が優れていたのですか? (生産性、整備性含む) 春眩 |
- 三式戦が低性能なのは、まず第一に十分な馬力が無いことによるものです。馬力が無いので遅く上昇力が無いのです。
三式戦と同じぐらいの主翼面積で同等出力のP-40も大体同じぐらいの性能ですから、三式戦が特に空力設計で悪かったということもありません。
また高性能で名高いP-51も、エンジンが三式戦のハ40と大差ない性能のアリソンのP-51Aですと、最高速度こそすばらしいものですが、20,000ft(約6000m)まで9.1分という、とてつもなく悪い上昇性能になります(エンジンの全開高度の関係もありますが、10,000ftまででも4.4分ですから悪いです)
つまり三式戦の空力設計や飛行性能は、同等出力の他国機と比べても、傑出して悪いわけではありません。
またP-51の優れていたところは、なんと言っても値段でしょう。
SUDO
- 便乗質問です。
拡散ラジエーターの理論で飛燕やマスタングはラジエターの抵抗が少なかったとありますが、キ60やP-40試作機の場合の処理はどうだったのでしょうか?
胴体下にあったP-40原型は位置が悪いと機首に移されましたが、そのあたりの処理が悪かったのも一因だったのでしょうか?
KZ
- p-51のお値段がメリットだとは初耳でした。
製作工程やお値段は同時期の他の戦闘機に比べどの程度のものだったのでしょう?
P-51がエンジン換装により著しい性能向上を果たしたことは知っていますが、同様の改良を施したp-40のや、オーストラリア空軍に配備され零戦に駆逐された
スピットファイアの例を見るにつけ、カタログスペック上はマーリンエンジンがそれほど優れているようには見えないのです。
p-51の空力設計がとりわけ優れていたということでしょうか。
マーリンエンジンである以上、背面状態でのエンジンの息継ぎとや停止という欠点があったでしょうし、
空戦での活躍した理由は、大量運用、レーダーによる管制や高高度性能を利用した有利な場所への占位、
無線を活用した編隊航空戦によるものと解釈してよろしいでしょうか?
春眩
- >オーストラリア空軍に配備され零戦に駆逐されたスピットファイアの例
英連邦軍の場合、劣勢に陥ったのは性能差よりも主として戦法の差でしょう。
ビルマのスピットでも同様ですが、一撃離脱戦法の不徹底が主因であり機体の性能差が主因とは思えません。
特にオーストラリア空軍の場合、日本機に対する侮りもあり、これもオーストラリア空軍の損害を増やした要因の一つでしょう。
>同様の改良を施したp-40のや
P-40Fの搭載したV-1650-1とP-51Bの搭載したV-1650-3では高度0にて370馬力ほど差がありますが・・・
もちろん飛燕とは550馬力もの差があります。
>マーリンエンジンである以上、背面状態でのエンジンの息継ぎとや停止という欠点があったでしょうし
いつの頃のマーリンエンジンをさしていますか?SpitV以降ほぼ解決していますが・・・
P-kun
- >2
ラジエータ位置だけで言うなら機首は最良です。P-51で優れてるのは拡散させて減速させた冷却気を、ラジエータ後方のダクトで絞ることで再加速させて、飛行速度よりも速いぐらいの速度で排出することで抵抗を抑えたところにあるんです。これは理屈上では何処でも試みましたが、ダクトの形状や設計に困難があり、加速させるのに抵抗を大きく作ってしまっては、結局トータルでは損失が多いことになってしまうので、上手く出来た例が少ないのです。
>3
P-40やオーストラリアで日本軍と交戦したスピットファイアVのマーリンエンジンは、一段過給器のもので、別にそんなに凄いエンジンでもなく、大体1100〜1300馬力ぐらいのものなんですが、P-51に搭載されたものは2段過給器のもので、戦闘緊急出力で1700馬力も出ちゃうんです。同じ系統のマーリンを積んだスピットファイアLF9は「最良のスピット」と言われて、P-51と同様に無敵高性能ぶりを示してます。
またマーリンの背面飛行での息継ぎ問題は、気化器を弄ることで対策され、P-51に搭載される頃には恐らく世界最高の気化器である米国製のベンディックス・ストロンバーグの噴射式気化器を積んでますから、まったく何の問題もありません。
勿論P-51はアリソン積んでたP-51Aの時点でも同じエンジンのP-40等よりは速かったのですから、速度に関しては上手く成功した設計でしたが、その速度の理由の過半はラジエータではなく抵抗の小さい主翼設計にあり、逆に低速飛行が苦手な主翼ので、ゆっくり飛んで余剰馬力を引き出さねばならぬ上昇性能では余り褒められず、とにかく速度を稼いで、その速度の優位で戦うという飛行機です。
また空中戦で活躍したのは、数の優位、無線等の編隊空戦の技倆、遠方から射撃できる照準器、巡航速度がやたら速くて奇襲を食らいにくく逃げやすいという特性、主に爆撃機の護衛だったこと等の、優位な点が複合的に絡み合ったものです。
また、値段に関しては以下をどうぞ
http://www.nationalmuseum.af.mil/factsheets/factsheet.asp?id=1174
P-47Dは85,000ドル、P-38Lは115,000ドルですが、P-51Dは54,000ドルしかしません、安いんです(P-40はもっと安いですけど)
SUDO
- SUDO様、貴重な資料有難うございます。
>劣勢に陥ったのは性能差よりも主として戦法の差
無論単ににスピットファイアMkVが零戦に劣っていると言いたいわけではありません。
少なくとも冷戦に対して「性能の優位に寄る勝利」を収めることが出来なかったといいたかったのですが、
Mk.vのエンジンとp-51のエンジンは登場の時系列が違うみたいですね。
私の不勉強で申し訳ないです。
>もちろん飛燕とは550馬力もの差があります
飛燕ニ型と比べるべきではないでしょうか。
P−51Bと飛燕ニ型を比べた場合
そうすると馬力差は200馬力ほどで、機体重量の差を考えると単純なエンジン出力ゆえにP-51(B以降)が隔絶した性能(高速性、運動性)を誇っているとは考えにくいような気がします。
(素人考えです。あと、無論飛燕(II型以降)の出力が額面落ちしていたかもしれないですが)
出力はカタログ上は同じ数値であってもp-51の方がエンジンに無理が利いたり(たとえば急激な出力変化が可能とか)
するなどの有利な点があったのでしょうか。(完調の飛燕と比べてです。)
p−51の活躍が複合的要因であることは理解しています。
ただ、よく言われるように「エンジン換装で生まれ変わった」というほど
p-51に搭載されたマーリンエンジンのカタログスペックが他に比べて隔絶していると思えないのです。
馬力について調べていたところ
マーリン60系の出力を2000hpとしている資料があってますますわけがわからなくなってきました。
春眩
- >6
三式戦二型のハ140は、離昇で1500、公称1250馬力5700mです。
P-51B以降に搭載されたV-1650-3等の公称数字は極めて控えめですが、実際はそんな低いブーストで回してないんです。最大までかけると海面高度で1940BHPをたたき出すそうですから、約2000馬力と言っても差し支えありません。
また、それだけの強烈な過給圧を作るには、大気圧も必要ですので、高度が上がると其処まで出せなくなります。だから実はP-51の高性能とは高高度ではなく、低中高度で発揮されます。勿論高高度でもそれなりに高出力ですが、怖いのは中高度の馬鹿馬力なんです。
V-1650の馬鹿っぷりはここらをどうぞ。
http://www.wwiiaircraftperformance.org/mustang/mustangtest.html
SUDO
- >ラジエータ位置だけで言うなら機首は最良です。P-51で優れてるのは拡散させて減速させた冷却気を、ラジエータ後方のダクトで絞ることで再加速させて、飛行速度よりも速いぐらいの速度で排出することで抵抗を抑えたところにあるんです
この話は無理があるように思います。
再加速しても、ラジエター外部の空気よりは全圧が下がってしまっているはずなので、合流部で必ず圧力損失が生じて、うまくいかないはずです。
じゃま
- >8
ラジエータは熱交換器ですから、排気は暖かいのです。そして加速に使うのではなく、合流部で生じる抵抗を削減するのに使うのです。推力だと思うから理解できなくなるんですよ。
SUDO
- 7>
SUDOさん提示のページによると、最高速度450mphは67Hg、即ちSLで1630HPの時出されてるように見えます。
(下の方のグラフ参照)
もちろん、仰るとおり1940HP時(しかも150グレード時)では、中高度以下にてパワーアップが見られることが判ります。
3式戦との差については純粋に過給機や機体の空力差という回答で十分かと思います・・・
P-kun
- >10
だから、6000mとか4500mあたりの速度を三式戦と比べてみればよいかと。
空力差はそんなに無く、その多くは馬力差であるということです。
SUDO
- >6
馬力について調べていたところ
マーリン60系の出力を2000hpとしている資料があってますますわけがわからなくなってきました。
ネットでこれらが安く買えるので基本資料にいいと思います。
Rolls-Royce Heritage TrustのMerlin in Perspectiveや
THE MERLIN 100 SERIES。
KZ
- SUDO様、KZ様どうもありがとうございました。
春眩
- ラジエターについて補足です。
P−51のラジエターは胴体中央部に埋め込まれています。そのため、狭い口から入った空気が長い広がったダクトで十分減速してラジエターを通過します。
空気抵抗は速度の2乗に比例するので、かなり空気抵抗の低減になっています。
ところがこの方式は流入口前の機体との境界で乱流が起きるので、効果をふいにしてしまいがちです(>2の例ですね)。
P−51は吸入口を胴体から離したうえ、ダクト内でも境界層を分離するバイパスを設けて整流しています。
この方式はMe109Fでも同様で、P−51はそれをぱくったとも言われています。
また、「最優秀」ということですが、「最強」ではないので注意です。模擬空中戦ではスピットに、機体強度ではP−47に劣り、燃料を半分以上積んでいると縦安定性が不良だし、M2機銃の威力不足もあります。
ただ、あの程度の性能を長航続距離の中で実現したことが優れている、ということでしょう。
えりっひ
- 1.「低速で、上昇力や加速性能も劣ると評される」と飛燕を評したのは誰か。
2.「最優秀」とP-51を評したのは誰か。
まずはそこから調べると、疑問が解けていくように思います。
ワンショットライターや七面鳥撃ちといった、出典不詳のまま、
確定的評価のように語られている言われ方もあります。
私の記憶の範囲で答えますと、
1.は旧陸軍の飛燕乗りの記述に由来するように見えます。
戦後に記述を残すような搭乗員の方は、
大抵機体の消耗と新型への乗換えを経験しています。
そして、飛燕自体、マイナーチェンジでI型が甲・乙・丙・丁と進みましたが、
武装と防弾の強化により、エンジン出力が延びないまま重量が増加しています。
作戦における搭載燃料量の違いも考慮する必要はありますが、
I型を次々乗り換えた場合、戦局が厳しくなるのに、
新型ほど上昇(加速)が遅くなっていくと感じて、特に評価が厳しくなったと考えます。
特に、飛燕II型のハ140に至っては飛び立つ以前に生産が滞り、
機体だけ5式へのエンジン換装に回されたとされますから、
記述できるだけ運用できた搭乗員がどの程度実在したか、
調べてみてはいかがでしょうか。
他方、P-51Dは長距離侵攻時、Me262等と異なり、
概ね航空優勢下で離陸できた為、日本側の運用条件であれば問題視され得る
弱点(離陸時、すなわち燃料が多い時は機動制限有り)を
搭乗員が強く意識する記述が残っていないとも考えられます。
Teru
- http://www.wwiiaircraftperformance.org/japan/Tony-I.pdf
アメリカ海軍の戦闘機と鹵獲された飛燕1型との比較です。
速度、上昇力ともFM-2(F-4F)を除く機体に劣っているとの評価です。
低速での操縦性は良いが、高速(180kt以上)ではエルロンが重くロールが遅い。
300mphまでの加速は良好。
テスト機は20000ft以上でのエンジンの状態に問題があったとの記述があるので、ベスト状態あるいは日本側で整備した状態と差があるかもしれませんが、
アンダーパワーとの評価はアメリカ側からも出ているようです。
い
- >15
お考えそのものは筋道が立って素晴らしいと感じます。
しかし三式戦闘機の上昇力に対する批判の中で最も初期のものには、
陸海軍の交流の中で海軍航空本部側が陸軍航空本部に対して示した評価があります。しかもこれは最も軽いはずの試作機に対するものです。
BUN
- >10 >11
空力性能の差について、設計者のご意見を紹介いたします。
「飛行機設計50年の回想」、土井武夫、酣燈社,1989
213ページ 「P-51の冷却装置に感服」より
P-51 全機抵抗面積 0.42m**2
キ61 全機抵抗面積 0.46m**2
「キ61に比べ10%向上している」との見立てです。
機体規模がほぼ同様の両機の抵抗面積の差を
1 冷却器レイアウト
2 層流翼
によるものとしています。
ちなみに、土井先生は冷却器のメレディス効果の寄与については否定的で、冷却空気排出速度が最高速度で全機の抵抗最少となるように設定しているのが効果的との説明です。
P-51の最高速度と冷却器出口扉の開度設定については、>7のリンク先に載っております。
い