88  世界で最初に前方に折り畳むカナードを付けた飛行機を教えてください。ミラージュ3のスイス向けが最初のような気がしています。
「む」

  1. なかなかリプライがつかないので、呼び水程度に…

    現代的な“航空機”の形態が定まらない揺籃期の異形機はナシとすると…

    「“前方に”折り畳む」+「カナード(前翼)」という条件だと、言われている機体だと思います。スイス向けに、ミラージュIIIのエンジンを強化して引き込み式前翼をつけた“ミラン”です。その後、前翼を除いてミラージュIII/50(エンジンがアター9K50)と呼ばれましたが、1機のみ試作に終わっています。

    後方に引き込むカナード、ということだと、ツポレフTu-144(コンコルドスキー)があります。試験機の他に一応15機造られていますが、問題が多くコストも高くて、早々にエアラインから姿を消しました。

    計画機としては、奇っ怪なWWII末期の、所謂“P(=プロイエクト、Project)”シリーズ中に埋もれた計画があった「かも」しれません。形状が記録されている BV P217は、小型の前進翼カナードを持ったクリップド・デルタ機なので、このころの膨大なアイデアスケッチ群の中には該当機があったかも。

    類似の引込み/折畳み式ギミックとしては、F-14 トムキャットの“グローブ・ベーン”とか、B-1ランサーの1〜3号機のみにあった、脱出カプセル用の折畳みフィン(イアー(耳)と呼ばれた)が外部から確認できるくらいでしょうか。双方ともミランのカナードとは意味合いも目的も違いますが。

    最近になって公表された旧ソ連の試作機群も一応ザッとあたってみましたが、引き込み式カナードというのはなさそうです。ただ、スホーイ/ツポレフ系では、B-70式のカナード機がかなりあるようなので、Tu-144の存在も併せて考えると、ペーパープランとしては皆無とはいえないかもしれません。
    また、Tu-160ブラックジャック級の機体として提案された、ミヤシシチョフM-20系は、M20-18がカナード+VG翼、M-20-23がVG翼、M-20-24が無尾翼デルタ、など様々な検討がされているので、設計時期(1975年ころ)からするとミランやTu-144の影響を受けたデザインがあったかもしれないですね。

    TOSHI!!

  2. ちょっと追加です。

    ミランにしても、Tu-144にしても、この引き込み式カナードは「後付け」なんです。ミランはスイス向けに離着陸距離を短くしようとした結果ですし、Tu-144も初期設計にはカナードがありません。

    近年のタイフーン/ラファール/グリペン 等、カナードが必要な要求なら初期から取り入れているはず(というか概念設計に含まれる)ではないかと…
    イスラエルのクフィル等も、後付けで前翼を追加していますが、格納式ではないし、ミラージュ2000のインテーク上のフィンと同じような効果もあったかと思います。ちなみにミラージュ4000はポシャッてますが、クフィルに類似した前翼を持っていましたし。
    TOSHI!!

  3. 回答、ありがとうございます。
     形になって飛んだ飛行機としてはミラン(ミランS?)が最初と考えて良いとします。


    「む」

  4. >類似の引込み/折畳み式ギミック
    ビーチ・スターシップのカナードも可変後退角機構を備えています。迎角を変更せずとも空力中心点を動かすことができ、最適姿勢を維持したままピッチトリムを調整できるというのが売り文句でした。
    無記名

  5. >ミラン(ミランS?)
    この表記ですが、手元資料の範囲では若干混乱があって、正式(公式)にはどうなっているのか特定できません。また、一部錯誤というか、当方の誤解による誤りもあるので、判る範囲で詳述します。

    @:航空ジャーナル別冊「世界の軍用機」1975、1976等
    ⇒タイトルは、一貫して“ミラン”になっているが、データ表記部分では“ミランS-01”とされている。(1970年5月29日初飛行、一機)。これを、アター9K-50搭載としている。また、この“ミラン原型機”からカナードを取り除いたものが、1975年のパリ航空ショーに“III/50”として展示、とされる。(鳥養鶴雄氏の記述)

    A:世傑No70「ダッソー・ミラージュIII」
    ⇒P28に開発経緯、P43に写真があるが、前者は“ミラン“と“ミランS”の記載が混在し、後者はタイトルは“ミランS“。
    ⇒P28の記載(浜田一穂氏の記述)を注意深く読んだ結果、まず事実として、
    1.前翼(カナード)を備えた機体(=ミラン/ミランS)は3機実在する。
    ・1号機はミラージュ5+固定カナードの試験機。1968年9月初飛行。
    ・2号機はミラージュIIIR+前方引き込み式カナードの試験機。1969年5月初飛行。
    ・3号機が生産仕様機で、アター9K-50エンジン、「ジャギュアの攻撃航法システム」を搭載して(*)、1970年5月29日初飛行。
    2.1号機、2号機は既存機体の改造、ともとれるが、3号機は新造とも受け取れる記述。
    3.同書のP29では、文章中には“ミラン”としか記述がないが、同頁の2号機の写真の解説のみ“ミランS試験機”となっている。また、同掲の生産仕様機(=3号機)の解説では、「ミランは合計3機試作されたが云々」という記述になっている。
    4.同頁には、Tu-144にも言及されているが、1998年5月の発刊にもかかわらず、“こちらも生産には移されずに終わった”とあり、明らかに事実誤認。
    (「世界の民間機1979」で、推定生産機10〜20機とされ、実際には総数15機。断続的にラインを飛んだ機体はカナード装備機)

    また、P43の“ミランS”とされる2枚の写真は、それぞれ3号機、2号機です。(=1号機がミラージュ5からの改造機試験機であるなら、機首の形が違う)
    更に、世傑No70.P18では、ミラージュ50をミラージュ5の改良型としていますが、III/50はレーダー装備のミラージュIII系列の機体なので、少々ツジツマが合いません(これは筆者も一部提案のバリエーションとして推定しています)。

    これらを総括して、若干の事実誤認があることも勘案しつつ、私見としてツジツマを合わせると

    @:ミラージュIII系(簡易型の5も含む)に、“機首”前翼(カナード)を装備した3機を総称して“ミラン”と呼ぶ。
    A:この中で、特に引き込み式前翼を持ったものを“ミランS”と呼ぶ。
    B:“ミラン”の本来形は3号機であり、引き込み前翼+強化エンジン+ウエポンシステム改善を施した、スイス向けの機体。(*):スイス空軍向けのミラージュIIISは、当初からヒューズ系のアメリカ製ウエポンシステムを持っており、ファルコンミサイルの運用が可能な(やや特異な)仕様だった。
    C:ミラージュ50はエンジン強化(アター9K-50搭載)を主眼にしたミラージュ5のグレードアップ版と位置付けられた。後に、ミラージュ50としての新造機(?)が1979年4月15日に初飛行しているが、ミラン3号機から前翼を取り除いた機体は、III/50として、ミラージュ50の原型的な扱いとなった。
    (ミラージュ50は本来ミラージュ5の後継機的な提案だったが、予めバリエーションの中にレーダー装備の仕様もあり、実機にもレドームがある(実際に搭載されていたかは不明)。

    といった解釈になるかと思います。その意味では、(広義の)ミラン、(狭義の)ミランS、どちらの言い方でも正しいかと… (個人的にはミランで良いと思っていますが、苦しいかな?)

    尚、クフィルとの相違・相関については、クフィルC2(この型からカナード付)の公開が1976年7月ですが、これはエンジン換装と同時に構造も相当強化された結果であり、オリジナルのミラージュIII系では構造的に耐えられないため機首に装備、インテークへの気流の影響(と武装との干渉)を勘案して引き込み式にしたのでは?と思います。後にミラージュIIISにインテーク上部固定カナードを付ける改修を行ったスイス(…!!)では、クフィルに比べて約2/3の面積の小型にして(ガマンして?)います。

    >4.
    ビーチクラフト・スターシップのカナードは独特の位置にあるのですが、その機構は知りませんでした。ご指摘ありがとうございます。バート・ルタンの意欲作でしたが、総複合材構造のため試験に手間取ったり、未来的すぎるデザインで顧客が引いたり… という不遇機(53機のみ生産)でしたね。

    TOSHI!!


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